第27話 撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ

戦いを終えたペキにマツとバリーさんが走り寄ってくる。


マツ「すごいです! ペキさん!」

バリー「にゃっ!」


ペキ「バリー殿もよくやったでござる」

バリー「にゃ!」


マツ「ペキさん、剣も使えるのですね?」


ペキ「いや、ほとんど初めてでござる」


マツ「え? …いや、でも、あれだけ強そうな冒険者達を相手に無双したじゃないですか?」


ペキ「いや、実は、レベルアップして使える空間魔法が増えたのでござる。空間魔法頼りの戦法でござった」


マツ「クウカンマホウ?」


ペキ「いかにも。実は、レベルアップして、空間魔法の一つ、空間転移が使えるようになったのでござる。と言ってもごく短い距離だけでござるが」


マツ「空間転移???」


ペキ「ほれ、このように…」


マツ「あれ?! ペキさんが消えた?!」


ペキ「こっちでござるよ」


ペキは転移でマツの目の前から背後に移動したのである。


振り返ったマツに見えるように、今度は1m横に転移してみせるペキ。


マツ「おおおこれは…」


ペキ「いかな剣の上級者でも、瞬間移動する相手と戦うのは難しいでござろう?」


バブス「そ……そんなの……汚ねぇぞ……」


ペキ「それと…この刀でござる。魔力を流すと切れ味が上がる刀でござった。これ、掘り出し物でござるよ」


実はこの刀、色々とギミックが仕込まれていたのだが、これを持ってきた商人がその説明をする間もなく死んでしまったため、それが伝わっていなかったのである。


たまたま、ペキは、この刀を手に入れた後、嬉しがって、宿で寝る前に鞘から何度も抜いては鑑賞していたのだが、その時に魔力に反応する事に気づいたのだ。


ペキは保有する魔力がかなり多かった。そして、レベルアップによって新たに使えるようになった魔法を、刀を持ったまま試行していて気づいたのである。


魔力を流し、刃物の切れ味を増す。そのような技術がこの世界には既に存在しているが、それは特殊な技術スキルを持つものだけの技でああり、誰でもできるというものではなかった。


だがこの刀は誰でも魔力を流せばそれが可能になるのである。


ただし、欠点もあった。魔力を流さない状態では、強度が鋼の剣よりも劣るのである。使用時は魔力を常に流しておく必要がある。また、魔力を際限なく込められるので、使用者が無理をしてしまうと大量の魔力を吸われ、魔力枯渇に陥ってしまう。(そうでなくとも、魔力を消費するので、魔力が少ない者が使用すると必要以上に疲労感を感じる事になる。)


だが、ペキはこの世界の人間としては破格の魔力量を持っていたので、この刀と相性が良かったのだ。


マツ「しかし、この人たち、どうするのですか?」


腕を斬られて血を流しながら呻いている【毒蛇の牙】の四人をちらりと見るマツ。


マツ「このままだと、出血多量で死んでしまいそうですが…」


ペキ「さて、どうするでござるかね」


ユクラ「いてぇよぉ……このままじゃ、出血多量で死んじまうよ~」


ペキ「自業自得でござろう?」


ユクラ「頼む、あ、謝るから! 死にたくねぇ、助けてくれ!」


ペキ「拙者の故郷に『撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ』という諺があるでござるよ」

ペキ「人を殺そうとするのなら、自分が殺される覚悟もあるべきでござろう?」


一瞬、銃がなさそうなこの世界で撃つという表現が通じるのか? とペキも思ったが、魔法を撃つと表現する事があるので通じるようであった。


ゴロウ「こ、殺すって言ってたのはユクラとバブスだけさ。俺は殺す気はなかったさ!」


ペキ「…言われてみれば、ゴ…ゴニョ殿は、襲いかかっては来なかったでござるな」


ゴロウ「ゴロウさ! …頼む、僕はユクラに命令されて付き合っただけなんだ…」


ペキ「確かに、其処許は、命は助けてくれるような事を言ってたでござるな…」


ゴロウ「そ、そうだろ? 僕は最初から殺す気は…」


ペキ「でも確か、全財産を出せばって話でござった。出さなかったら殺して奪うつもりだったのでござろう?」


ゴロウ「そ、そんな事は…ないよ! 拒否されたら素直に諦めたさ!」


ペキ「調子がいいでござるな……」

ペキ「しかし、よいでござろう。拙者は寛大な事で有名でござる」


そう言うと、ペキは亜空間収納から街を出る前に買った治療薬ポーションをとりだした。


そして、切り落としたゴロウの足を拾い、切断面に押し付けてポーションを掛けた。


ゴロウ「ううう…」


傷口から煙があがり、傷が治っていく。だが…


ペキ「おや、くっつかないでござるな?」


血は止まったものの、押し付けた足はくっついていなかった。


ゴロウ「なぁそれ、上級ポーションだよな、もちろん?」


ペキ「道具屋で一番安かったポーションでござるが?」


あちゃーと言う顔をするゴロウ。


ゴロウ「初級ポーションじゃ、切断した手足をくっつけたりはできないよ…」


ペキ「そうでござったか。一応、道具屋で値段の高いポーションも買ってあるでござるが」


ゴロウ「ほっ……それを早く言ってくれよ…」


ペキ「使う気はないでござる」


ゴロウ「なっ……んでさー……」


ペキ「だって高かったでござるよ」


ゴロウ「金なら後で払うサー」


ペキ「だってさっき金無いって言ってたでござるよね?」


ゴロウ「働いて払うさ! だけど、手と足をくっつけてくれないと、働けないさー」


ペキ「高級ポーションを使わなければ、働いて稼ぐ必要もないでござろう?」


ゴロウ「そんな~殺生な事言わないでさー、頼むよ~」


ユクラ「おい…俺も…治療…マジ、そろそろ死ぬ……」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る