第26話 冒険者稼業は体面を重んじる?
ペキ「ええっと……、ユ…ゴニョ殿…?」
ユクラ「ユクラだ! 誤魔化してんじゃねぇ! ったく、とことん舐めたヤロウだな」
ペキ「そうでござった、すまんでござる。拙者、人の名前を覚えるのが苦手で」
ペキ「で、ユクラ殿と…愉快な仲間達でよろしかったでござるか?」
『誰が愉快な仲間だ! 俺はバブスだ。街では剣士としてちょっとは名が知れてるんだぜ?』
『俺はゴロウさ』
『俺はヒラチだ』
ユクラ「四人で【毒蛇の牙】ってパーティを組んでる。街では少しは知られたベテランパーティだ」
ペキ「これはご丁寧に。拙者はペキ。それとマツ殿とその従魔のバリー殿でござる。パーティ名は特に決めていないでござる」
バブス「ってか名乗るつもりなかったのに、愉快な仲間とか言われて思わず突っ込んじまったじゃねぇか」
ペキ「しかして、その【
ユクラ「決まってんだろ。冒険者稼業は、舐められたままじゃやっていけねぇんだよ」
ペキ「はて? 冒険者ってそんな、体面を気にするような仕事でござったか?」
バブス「てか舐められたのはユクラだけだけどな」
ゴロウ「俺は金が貰えればなんでもいいよ。先週遊び過ぎて金欠でさ」
ゴロウ「君達さぁ、全財産差し出して謝るなら命は助けてもらえるよう、とりなしてあげるよ?」
ユクラ「いいやもう遅ぇよ。最近ストークの奴ぁ俺達に厳しいからな」
ユクラ「どうやって取り入ったのか知らんが、半端な事してストークに泣きつかれたら面倒な事になる。俺達が大人しく負け犬になるか、コイツラが消えるか、どっちかだ」
ユクラ「そして俺は、負け犬の生き方をする気はねぇ!」
ペキ「つまり…拙者達に街から出ていけと?」
ユクラ「少し違う。出ていくのは街からじゃねぇ、この世からだ」
ペキ「なんと、拙者達を殺す気でござるか!?」
ユクラ「お前らが悪いんだぞ、最初から素直に謝って授業料払っとけば良かったんだ。変に突っ張るから命を落とす事になる」
ヒラチ「まぁ、よくある話だ、諦めろ。調子に乗って森に深入りした新人冒険者が帰ってこなくても、誰も不思議には思わん」
バブス「そうとなったら、くだらねぇ問答してねぇでさっさと
バブスが剣を抜いた。
ゴロウ「相変わらずバブスはせっかちだねぇ。もっとジックリ甚振って楽しめばいいのにさ」
続いてユクラとゴロウも剣を抜いた。ヒラチは魔法使いなのだろう、杖を構えて数歩下がった。
ペキ「どうやら根っからの悪人どもでござるな…?」
マツ「ちょ! ど、ど、ど、どうしましょうペキさん?!」
ペキ「大丈夫。ここは拙者に任せるでござるよ」
バリー「にゃ!」
ペキ「お、バリー殿もヤルでござるか?」
バリー「にゃ!」
ペキ「では、あの後ろの魔法使いを頼むでござるよ」
ペキ「バリー殿のスピードで回り込むでござる」
バリー「にゃ!」
ペキは腰の刀の鯉口を切った。
ペキ「本当によいのでござるな? 命を狙われたからには、拙者達も手加減なしで応戦するでござるよ?」
ユクラ「あー! その妙な喋り方がムカつくんだよ! 普通に喋れねぇのか!」
ペキ「それは…拙者はこの話し方しかできないでござるよ…」
ユクラ「まぁいい、喋りたくても喋れねぇようにしてやる」
ペキは刀を抜いて八相に構えた。
ペキ「マツ殿は下がっているでござる」
マツ「だだだ大丈夫なんですか?」
ペキ「だだだ大丈夫でござるよ。拙者、大分レベルアップしているでござる」
バブス「はん、魔物を倒して多少レベルアップしたんだろうが、その程度で俺達に勝てると思ってんのかよ!」
せっかちなバブスがペキに襲いかかってきた。
戦闘開始の瞬間、バリーさんは風魔法を使った高速移動で消えてしまう。
剣を振りかぶり、踏み込んでくるバブス。
だがペキはバブスの眼前から消えてしまう。
バブス「?!」
ペキ「こっちでござるよ」
バブスの背後からペキがバブスの首に剣を突きつける。
バブス「なっ?! いつのまに!?」
バブスは慌ててペキの刀を振り払おうとするが、刀がバブスの剣と接触した瞬間、バブスの手の中から剣は消えてしまい、バブスは腕だけで空振りしてしまった。ぺキがバブスの持っていた剣を【収納】してしまったのである。
バブス「な…?!?!?!」
訳が分からず狼狽するバブス。
バブスの喉元に刀を突きつけるペキ。
ユクラ「何遊んでやがる!!」
ペキの後ろからユクラが斬り掛かってきた。
だが、再びペキの姿が消えてしまい、ユクラの剣は空を切る。そして…
ユクラの斜め後方に現れたペキが、ユクラの剣を持つ二の腕を斬り上げた。
ペキの刀がユクラの右腕を通過。さらに、返す刀でユクラの右足の太ももを斬り付ける。ペキの刀はまるでケーキを斬るように抵抗もなくユクラの手足を通過していき、一瞬遅れて手と足が地に転がる。
ユクラ「う? ……ぎゃぁあ!」
傷口から吹き出す血。
だが、ペキはその血を浴びる事なく、既にゴロウの横に移動していた。
ゴロウの剣に刀で触れて【収納】してしまうペキ。そこからコンパクトな小手斬り、そして返す刀での足斬りで、ゴロウの腕と足を地に落とす。
ゴロウ「!! ってぇぇぇぇ!」
ヒラチ「うわぁぁぁ!」
ふと見ると、バリーの爪撃が後方に下がって杖を構えていたヒラチを切り刻んでいた。
バリーは森の中をグルリと遠回りして走り、【毒蛇の牙】の後方に回り込んで来たのだ。
既にヒラチの身体はいくつかに分断されており、もう助からないだろう。
残るはバブス。バブスは剣を失ったがまだ無傷である。
バブスと目が合うと、ズイズイと無遠慮に近づいていった。
バブス「おい……まさか? 武器を持たない相手を斬る気か?」
そう言いながら後退るバブスの足に、先程斬り落とされたユクラの腕当たった。
慌ててユクラが落とした剣を拾って構え直すバブス。
ペキ「武器を持ったでござるね。つまり斬ってよいでござるな」
バブス「馬鹿め、さっきは油断しただけだ。少しはやるようだが、今度はそうは行かないぞ?」
バブス「そんなへっぴり腰の構えで勝てると思うなよ?」
ペキは剣道の経験はない。本人は格好良く構えているつもりなのだが、やはり剣の上級者から見ると、その構えはなっていないのかも知れない。
へっぴり腰と言われたペキは少しムッとした顔をし、刀を水平に後方に引いた。いわゆる脇構えである。
バブス「隙だらけだっつーの!」
防御を一切捨てた隙だらけの構えにバブスが一気に踏み込んで斬り掛かってくる。なるほど、本気を出してきたようで、先程とは比べ物にならない高速の踏み込みである。
だが、バブスの剣はペキを捉える事はできず。
バブスの真横に瞬間移動したペキが刀を二度振り、バブスの腕と足も地に落ちる事となった。
バブス「ぐぉっ!! 馬鹿なぁ、何が起きた?!?!」
ペキ「勝負あり、でござる」
血ぶりをして刀を鞘に収めるペキ。
戦闘開始から終了まで一分ほどしか掛かっていなかった。
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