第23話 冒険者ギルドあるあるの洗礼?

ペキ「う~少し心細くなってしまったでござるなぁ…」


ラダンの店で武器と防具を手に入れたペキとマツ。


ペキが購入したのは軽く動きやすい革鎧と日本刀(に似た片刃の剣)である。金貨十枚のところ、五枚にまけてもらった。刀と合わせて金貨二十五枚であった。


極めて質の良い品を破格に安くしてくれたのは理解しているが、スタートアップ資金(小金貨四十枚)の半分以上を一気に失わい、少しだけ焦る気持が湧き上がってくる。


地球だろうが異世界だろうが、金は必要である。生きていくのには金が掛かるのだ。


巾着の中身をあらためると、残りはあと十二枚しかなかった。


ペキ「やはり防具は返品してお金返してもらったほうが良いでござろうか?」


マツ「何言ってるんですか。防具をケチって命を落としたら元も子もないと言ったのはペキさんじゃないですか」


ペキ「そうでござるよなぁ…」


マツ「今泊まっている【そよ風亭】なら宿代と食費合わせても金貨二枚で五泊できますから。金貨十二枚なら一ヶ月は生活できる計算です。まだ焦るような金額ではないでしょう」


ちなみにマツも鎧と盾を買った。


マツが買った鎧は、ベースはペキと同じ革鎧だが、命に関わる急所部分だけ金属プレートで補強してあるタイプで、ペキの革だけの鎧よりも防御力が少し高いが、その分重い。(重量分、多少動きは多少鈍くなるが、マツはもともと動きが速いわけでもないので問題ない。)


それとバックラーを2セット購入。


トゲトゲバックラーは、正式に売り出す時は何倍か高い値段をつける予定だそうだが、試作品と言う事でひとつ金貨六枚で良いとラダンが言ってくれたのだが、ペキがそこからさらに値切り、金貨五枚という事になった。


鎧は金貨八枚だったので、合計金貨十八枚を支払い、マツの残金は残り金貨二十枚ほどである。


ペキ「とは言え、ラダン殿には感謝でござるな。【鑑定】してみたら、ラダン殿が売ってくれた武器と防具は、すごく良いモノでござった」


マツ「あれ、【鑑定】が使えるようになったんですか?」


ペキ「昨日森で大蛇を倒したあと、大幅レベルアップして、色々使えるようになったでござるよ」


マツ「へぇ、良かったですね」


ペキ「それで、鑑定してみたところ、(ラダン殿が売ってくれた武器と防具は)定価で買えば桁がひとつ違うほどの良い品でござった」


マツ「へぇ、そこまでですか。ちょっと悪い気がしますね」


ペキ「まぁラダン殿が良いというのだから良いでござろう」

ペキ「代わりにラダン殿店について、機会があったら宣伝でもしておくでござるよ」


マツ「そうですね。口コミって重要ですもんね」


ペキ「とくにこういう世界では、口コミだけが宣伝媒体である可能性が高いでござるからな」


マツ「武器と防具も手に入れたので、いよいよ依頼を受けてみますか? 資金が尽きないうちに金を稼げるようになっておかないと、食っていけませんしね」


ペキ「では、冒険者ギルドに行って依頼でも見てみるでござるか…」


マツ「あ、そう言えば、昨日倒した大蛇の素材の代金と報奨金がもらえるって言ってませんでしたか?」


ペキ「そうでござった! ギルドに行くでござる。依頼も確認したいでござるしな」


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■冒険者ギルド


冒険者ギルドは武器屋の隣なので到着は一瞬である。


今日はまた見たことのない受付嬢がカウンターに座っていた。名札にはナタリーと書いてある。


ナタリー「いらっしゃいませ、はじめましてですね。冒険者証ギルドカードをお見せ頂けますか?」


ペキは冒険者証ギルドカードを亜空間収納から取り出して見せた。


ナタリー「あれ? 今どこから?」


ペキ「昨日買取カウンターに納品した魔物の素材の代金は、もう貰えるでござるか?」


ナタリー「えーっと……ああ、ありますね、査定は終了しているのでお支払い可能…ええ?! 金貨二百枚?! しかも昨日登録した初心者なのに?!」


ペキ「あの、ナタリー殿? 声が…」


ナタリー「一体何を納品…ってダビル・ヴァイパー?! これってBランクの魔物じゃないですか!」


ペキ「…大きいでござるよ」


ペキはため息をついた。


ペキ「ナタリー殿。この世界…この国の冒険ギルドにも、守秘義務というのがあるはずででござるが…?」


ナタリー「え?」


ペキ「冒険者の情報、スキルやランク、依頼内容や報酬について、皆に聞こえるように大声で叫ぶのは問題ではござらんか…?」


ナタリー「あ す…いません……」


ナタリーは慌てて口を手で塞ぐジェスチャーをするが、もう遅かった。


ペキ「ああ、まずい雰囲気でござるね…」


ちらりと周囲を見ながらペキが言った。


マツ「…? どうしました?」


ペキ「後ろの冒険者達の中に、何人か怪しい目つきをしていた者達が居たでござる」


マツも振り返って見るが、怪しい連中はもう全員目を逸らした後であった。


ペキ「“新人”、“大金”、というキーワードで、良からぬ事を企む連中が居るかもしれんでござるよ」


マツ「襲われる、という事ですか?」


ペキ「そう、これもあるあるなパターンでござる」


ナタリー「だ、大丈夫ですよ~この街の冒険者にそんな悪い人は居ないでしょう」


『おう、そうだぜ! 失礼な事を言うんじゃねぇよ! なぁみんな?』


一人の冒険者が近づいてきて言った。


ペキ「…だといいのでござるがね」


男はユクラと名乗った。Dランクの冒険者だそうだ。


ユクラ「聞けば昨日登録した新人らしいが、先輩に向かって随分生意気な態度だなぁおい」


ペキ「あ、そっちのパターンでござったか…」

ペキ「冒険者ギルド名物、新人に絡む意地悪な先輩って奴でござるな?」


ナタリー「と、とりあえず、お金用意してきますので。あ、冒険者カードお返ししますね」


ナタリーはバツが悪いのか巻き込まれたくないのか、ペキの冒険者証ギルドカードをカウンターに置いて行ってしまった。


そして、それを取ろうとしたペキより一瞬早く、ユクラがカードを奪い取ってしまう。


ペキ「…返すでござるよ」


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