第22話 日本人ですもんね~

ラダン「……修復費用を心配しているなら、もちろんタダでいいぞ?」


ペキ「いや、そうではないでござる」

ペキ「じつは、拙者、両刃の剣ではなく、片刃の剣が欲しいのでござる。できたらこう、弓なりに刀身が反ったやつがあれば最高でござる」

マツ「ああ、分かります、日本人ですもんね~」


ラダン「ニホンジン?」

マツ「ああいえ、こちらの話です」


ペキ「使ってみて思ったのですが、両刃の直剣って意外と扱い難いのでござるよ」


ラダン 「片刃の剣が欲しいとは珍しいな。冒険者には両刃の剣を選びたがる奴が多いんだが」


ペキ「なぜでござるか?」


ラダン「そりゃ両刃なら、片側が切れなくなっても反対側が使えるからお得だろ?」


ペキ「なるほど。でも、片刃の刃物なら背側は触れても大丈夫でござるが、両刃の剣は不用意に刀身に触れられないでござる。もし押し返されたり跳ね返って来たりしたら、危ないでござるよ」


マツ「“両刃の剣”って表現があるくらいですもんね」


ペキ「それに直線の剣は切れが悪いでござるしな」


シダン「親父、そういえば、一本あっただろう? 片刃で弓なりに反った剣。遠い国から来た商人が置いてった…」

ラダン「…ああ、そういやあったな…」


ラダンは奥へ引っ込みゴソゴソやっていたが、やがて一本の刀を持ってきた。


ラダン「そんなに悪いもんでもないんだが、これを持ってきた商人が直後に魔物に襲われて死んじまってな。縁起が悪いってのと、さっき言った通り片刃の剣はあまり人気がなくてな、売れずに埃を被ってたから、これなら安くしてやるぞ」


ペキ「いくらでござるか?」


ラダン「そうだなぁ…金貨二十枚でいいぞ」


ペキ「う…高いでござるな」


ラダン「ばかやろ、本当なら金貨二百枚は欲しいところなんだぞ?」


ペキ「うーん、まぁいいか、買うでござる」


マツ「え、買うんですか? 金貨二十枚ですよ?」


ペキ「武器防具をケチって命を落としてら本末転倒でござるしな」


マツ「なるほど…」

マツ「私も何か武器を買ったほうがよいですかね?」


ペキ「マツ殿はテイマーなので、まずは防具にお金を掛けたほうが良いでござろう。攻撃は従魔に任せれば良いのでござるからな」


ラダン「ほう、お前はテイマーなのか。この猫が…? ほう、ストームキャットか」


ペキ「まだ小さいでござるが、きっと、成長すればかなり強くなるでござるよ」

ペキ「というか、ラダン殿も鑑定が使えるのでござるな」


ラダン「この種の商売は鑑定なくしては務まらんからな」


ラダン「お、そうだ! これを使ってみろ!」


そう言ってラダンが妙な武器? を出してきた。


ペキ 「これは……バックラーでござるか?」


バックラーとは直径三十センチほどの小型の盾である。前腕部に装着するスモールシールドとも違い、中央部分が球状になっており、その裏面にあるグリップを持って手の前に構える。


ただ、ラダンが出してきたのは、バックラーとしては少々変わった形状をしていた。握り部分とは別に、手首を固定する金具がついており、握力頼りにならないように工夫されている。そしてさらに、中央の半球状の部分に鋭い棘が数本ついていた。


ラダン 「人気がないバックラーだが、俺なりに考えて工夫してみたんだ。これなら、防御と同時に攻撃にもなるだろう?」


棘がついた盾ならば、体当たりするように盾でぶつかっていく事で相手にダメージを与えられる。バックラーはさらに小さいので、突き出す事で防御と攻撃を兼ね備えたものになるわけである。


マツ 「…これ、もう一個ないですか?」


ラダンに使い方を聞いて、片手で何度かバックラーを突き出す動作をしてみたマツが、両手に持ちたいと言い出した。


マツ 「実は、『はじめのボクさ』が好きでしてね…」


ペキ 「たしか、ボクシング漫画でござったか? マツどのはボクシングを?」


マツ 「いや、やったことはないんですけどね…漫画で知識だけは…」


両手にスパイク付バックラーを装着し、交互に突き出してみるマツ。


ラダンが木剣を差し出し顎で合図をしてきたので、受け取ってマツと対峙してみるペキ。


木剣を振りかぶり、軽く振り下ろしてみるが、マツはバックラーで受けながら下がって逃げようとする。


ペキ「ああ、違うでござるよ。バックラーは面積が小さいので視界を遮らないでござるが、その分攻撃を防ぐ面積が小さく、衝撃にも弱いでござる。攻撃の攻撃が勢いに乗る前に、積極的に前に出て相手の武器を止めに行く使い方をするでござるよ」


マツ「なるほど」


ペキがゆっくり攻撃してやると、徐々にコツを掴んでくるマツ。


すると、たしかに戦いにくい、面白い武器(防具)だなとペキも思った。


振り下ろす前にバックラーに止められ、しかもちょうど棘の間に木剣が挟まって引く以外の方向には動かせなくなってしまう。その間に、もう片方のバックラーで攻撃が繰り出されると、飛び退いて逃げるしかない。


ラダン 「二つ使うのは俺も想定してなかったが、なかなか良いな」


ラダン「使わない時は折りたたんで肘か肩に装着しておけるようになってる。肩につけたままタックルしたり、肘に装着したまま肘打ちしたりもできるぞ」


ペキ「マツ殿はテイマーだから、自分が強力な攻撃力を持っている必要はないでござるから、意外と合うかもしれんでござるな」


ラダン「盾だけじゃなんだから、鎧もあったほうがいいな」


ペキ「拙者は動きやすいのが良いでござる」


ラダン「動きやすいなら革鎧だな。じゃぁ、二人にあった鎧を選んでやろう。希望通り安くしといてやる」


ペキ「かたじけないでござる」

マツ「ありがとうございます」



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