第21話 ヴァイパーキラー? いらんでござる

剣と盾の描かれた看板が掛けられた扉を躊躇する間もなく開き中に入ってしまうペキ。


マツもバリーさんを抱いて慌てて後を追う。


『なんだ? 冷やかしなら帰れよ?』


店の中に座っていた小柄な人物が不機嫌そうに言った。


ペキ 「おお、ドワーフでござる! これまた典型的な偏屈そうな…」


ドワーフ 「なんだぁ? ドワーフならどうだってんだ? 気に入らねぇってんなら相手になるぞ?」


ペキ 「いやいや、これは失礼。拙者特にドワーフに偏見など持ってないでござる。ただ、初めて見たので感動したのでござるよ」


ドワーフ 「初めて……? ドワーフなんざこの街では珍しくもねぇだろうが。お前たち、よそもんか」


ペキ 「いかにも。四日ほど前にこの街について、昨日正式に冒険者になったでござるよ」


ドワーフ 「冒険者と言う割には武器も防具も持ってねぇようだが? 冒険者に憧れて田舎から出てきたって口か?」


ペキ 「そんなところでござる。まずは依頼を受ける前に武器と防具を揃えたいのでござる。品質の良い武器と防具を安く売ってほしいでござる」


ペキ「あ、その前に…」


ペキは亜空間収納からゴブリンが持っていた大剣を取り出して店主に見せた。


ペキ 「ボロボロでござるから、下取りしてもらいたいでござる」


だが、渡されたその剣を見た瞬間、店主のドワーフの顔がこわばった。


ドワーフ「お前…この剣をどこで手に入れた?!」


ペキ「? 森を歩いていたらゴブリンに襲われて返り討ちにしたでござるが、そのゴブリンが持っていたでござる」


ドワーフ「ゴブリンが…? …そうか」


ペキ「拙者達、何も武器を持っていなかったので拝借したでござるが、何か問題あったでござろうか?」


ドワーフ「…あの野郎、なかなか戻ってこねぇと思ったら……」


ペキ「……?」


ドワーフ「その剣は、ヴァイパーキラーと言ってな。毒蛇に対して非常に強い特効がある剣なんだ」

ドワーフ「そして…その剣は……冒険者になった息子に俺がプレゼントした剣だ…。この街の近くの森は蛇の魔物が多いからな…」


ペキ「へ?!」

マツ「……そうだったんですね……」


ドワーフ「さすがにゴブリンに殺されるほど弱くはなかったはずだから…どこかで強敵に遭遇して死んだんだろうな。ゴブリンはそれを拾ったんだろう」


ペキ「そうでござったか…それを拙者が拾い、この街にやってきたのも何かの縁でござるな。ではこの剣は店主殿にお返しするでござるよ」


ドワーフ「ああん? そんな必要はねぇよ。この剣を拾ったのはお前だ。所有権はお前にある」


ペキ「理屈はそうかもしれんでござるが、この剣、ご子息の形見でござろう? 今の話の様子だと、ご子息が亡くなられた事もしらなかった様子。形見も他にないのではござらんか?」


ドワーフ「息子が残してった荷物など家にいくらでもあるさ」


ペキ「しかし、店主殿の息子の形見など、拙者には荷が重いでござるよ」


ドワーフ「……そうまで言うなら受け取るが……」


ドワーフの店主はペキから剣を受け取り、そして言った。


ドワーフ「ラダンだ」


ペキ「らだん…?」


ドワーフ「儂の名だ」


ペキ「ああ、ラダン殿でござるか、拙者はペキと申します。こっちはマツ」

マツ「ペキさん、もうペキって名前を完全に受け入れたんですね…」


ラダン「この剣は買い取らせてもらう。それに代えて、武器とそれから防具もタダで用意してやるよ」


ペキ「いや。ちゃんと金は払うでござるよ」


ラダン「そうはいかねぇよ。ドワーフは受けた恩は必ず返すんだ。息子の形見を届けてくれた恩人から金なんてとれねぇ」


ペキ「最初からその剣は下取りに出すつもりでござったし? そもそもラダン殿がご子息の事、そして剣の特性を話さなければ、安物の剣として下取りしてもらって終わった話でござるし?」


ラダン「みくびるんじゃねぇよ、このラダン様をよ。息子の形見だと知っていて黙って安く買い叩くなんて真似、俺がするわけねぇだろ」

ラダン「しかし……お前もお人好しだな? さっき、品質の良い武器と防具を安く売ってくれとか言ってたくれぇだ、金ねぇんだろ? 形見と知ったからには高く買い取れと吹っ掛けてもよかったんじゃねぇか?」


ペキ「拙者も見くびらんでほしいでござるよ。ご子息を失って悲しんでいる親御さんの足元を見るような真似を拙者達はせんでござる」

マツとバリーさんもうんうんと頷いている。


ラダン「ふん。こちとら、息子が冒険者になった時に、こんな日が来る事は覚悟はしてんだよ」


『ただいまぁ!』


その時、店のドアが勢い良く開き、ドワーフの若者が入ってきた。


『いやぁ、参ったよ。死にかけた。やっぱり冒険者は大変だから辞めて、親父の後を継ぐ事にするわ』


ラダン「シダン…お前、死んだんじゃ……」


シダン「酷ぇ目に遭ったよ、けど、親父の息子だぜ? そう簡単に死んでたまるか」


ニカッと笑うシダン。だがその顔面にラダンの拳がめりこんだ。


ラダン「心配掛けやがって! このバカチンが!」


ペキ「あの? もしかして…?」


ラダン「ああ、さっき言ってた息子だよ。生きてやがったようだな。ちょっと馬鹿だが、頑丈さとしぶとさは受け継いだようだ…」

シダン「頭の悪さも親父の遺伝だろ」


殴り倒されながらもシダンは顔を上げ、ニカっと笑いながら親指を立てた。


ペキ「ご主人、良かったでござるな」

ペキ「では、この剣は形見でもなんでもなくなったでござるな」


シダン「あ、俺の剣……なんでお前が?」


ペキ「森で拾ったのでござる。落とし主に返すでござるよ」


シダン「え? ああ、さんきゅう…」


ラダン「いや、その剣はお前が使え。お前が拾ったんだからお前のモンだ」


シダン「え、俺の剣だぞ」


ラダン「お前、冒険者やめるっていってなかったか? それともまだ続けるのか?」


シダン「あ…いや。冒険者はやめるよ。俺には向いてないって事が分かった。俺はやっぱり鍛冶屋になる」


ラダン「バカヤロが。鍛冶屋だって簡単になれる商売じゃねぇぞ」


シダン「分かってるよ! 子供の頃からずっと親父の背中見てたんだ…。鍛冶の仕事が半端な気持じゃできない事くらい分かってる。だけど、俺、本気なんだよ。何年かかっても…一生掛かっても、親父を超える鍛冶師になってみせる」


ラダン「俺の目の黒いうちに越えさせるわけねぇだろうが、ったく」

ラダン「というわけで、この剣はお前が使え。この店に今ある剣の中では一番上等だ。まぁ、大分傷んでるから一度預かって治しといてやるよ」


ペキ「いや、下取りでお願いするでござる」

ペキ「拙者はいらないんで」


ラダン・シダン「はぁ?」



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