第20話 想像がおいつかん

ペキ「あ~。それは少し、タイガ達に同情するところもあるかもしれんでござるな」


マツ「そうですね、あの便利な日本から来たら……、若い二人にはしんどいかも知れませんね」

マツ「私ですら、まだ三日目ですが、ちょっと不便・不満を感じるところもありますからね」


スナフ「どういう事だ?」


ペキ「文化水準が違うのでござる。拙者達の居た世界は、魔法はないでござるが、文明がかなり進歩していたので…」


マツ「例えば、この世界には井戸しかないようですが、私達の世界には各家庭にレバーを倒すだけで水が出るような設備が備えられていたのです」


スナフ「それは凄いな。そんなの、大量の魔石が必要になるだろうに…」


ペキ「魔法や魔導具ではござらんよ。すべて物理的・機械的な仕組みでござる」


スナフ「良く分からんが…」


ペキ「水源地から各町の各家庭までパイプで水を流しているのでござる」


スナフ「そんなの、ものすごい量のパイプが必要になるだろうが?」


ペキ「そうでござる。でも、それがほぼすべての街に完備されている、そんな世界だったのでござるよ」


マツ「それに、この世界はテレビもラジオも、インターネットもないですからね」

スナフ「テレ? インターなんだって?」


ペキ「ああ~…この世界、劇などはござらんか? ある? ああ、娯楽は主に吟遊詩人? なるほど。まぁ、そのような劇や歌が、各家庭で毎日いつでもタダで見られる、みたいな状況が当たり前でござった」


スナフ「なんだそりゃ…想像がおいつかんぞ」


ペキ「二人に元の世界の事を聞かなかったでござるか?」


スナフ「ああ、数日後には最前線の街から迎えが来て、連れて行かれてしまったんでな。あまり多くは話せなかった」


ペキ「なるほど」


スナフ「既にあの二人は最前線で成果をあげつつあるとの情報が流れてきている。どうやら戦線は持ち直した。それどころか、魔王軍を押し返し始めているらしいぞ」


ペキ「それは僥倖。勇者殿は魔王討伐の使命を見事果たせそうでござるな」


スナフ「ああ、そうしてもらわんと困る。魔王は人類を滅ぼすと言ってるからな負ければ俺達の生活も終わりだ」


ペキ「それは困るでござるな」


スナフ「で、お前達は手伝わなくていいのか?」


ペキ「何度も言うでござるが、拙者達は勇者ではないゆえ。この世界に来てまた三日。分からない事も多いでござるし、とりあえず、冒険者として生活していけるように努力するでござるよ」


スナフ「そうか、分かった。まぁ、がんばるといい」


ペキ「では失礼するでござる」

マツ「失礼いたします」

バリー「にゃ」




  * * * *




ストーク「彼らの事は…」


スナフ「?」


ストーク「王宮には報告しないので」


スナフ「…しないわけにはいかんだろうなぁ」


ストーク「まぁ、ですよねぇ」


スナフ「だが、すぐにでなくともいいだろ」


ストーク「え?」


スナフ「彼ら自身が勇者とは関係ないと言ってるんだしな」


ストーク「まぁ、それを真に受けたと言うことにすれば…?」


スナフ「それに、冒険者ギルドは国とは独立した組織だ。持ちつ持たれつのところはあるので蔑ろにはできんが、そこまで忠誠を尽くす立場でもないしな」


ストーク「では、当分放置で?」


スナフ「まぁ、監視はつけておけよ。結構な逸材っぽいんだろう?」


ストーク「ええ、まぁ。マツのほうの従魔の実力はまだ不明ですが、ペキが大ジャを倒したのは事実ですからね」

ストーク「しかし、ペキは四大属性魔法を使えず。使えるのは空間魔法のみとか」


スナフ「だが、その空間魔法を使ってダビル・ヴァイパーを仕留めてみせた、と。面白いじゃないか、さすが異世界人だ」


ストーク「彼らが異世界人だって信じるんですね?」


スナフ「ああ。先に保護した二人、勇者と聖女も、早くも前線で活躍し始めているという情報が、前線に居る冒険者から入ってきている。ならばペキとマツもそうだと考えるべきだろう」

スナフ「まぁ、彼らも来た・・ばかりだそうだからな。色々と準備も必要なんだろうから、その間になるべく恩を売っておきたいところだ」


ストーク「他の街に行かれても面白くないですしね」


スナフ「そういう事だ」




  * * * *




宿に戻ったペキとマツとバリーさん。食事をしながら明日の予定を話し合う。


マツ「え、依頼は受けないのですか?」


ペキ「いずれ受けるでござるが、その他にも色々と準備があるでござる。あと、調べ物も」

ペキ「依頼を受けるにしても、武器や防具など、装備をきちんと整える必要があるでござる。マツ殿もまさか、武器も防具も持たずに依頼を受けるつもりではござらんであろう?」


マツ「研修の時みたいにギルドで貸してもらえないですかね?」


ペキ「貸してくれるかもしれんでござるが、多分最低品質のモノになるでござる」

ペキ「自分の命を守るものなのだから、ちゃんとしたものを持っておいたほうがよいでござるよ」


マツ「なるほど。必要経費ですね」


ペキ「ござる」


――――――――

――――

――





――

――――

――――――――


翌朝。


一緒に研修を受け、正式に冒険者になった者達は、早朝からさっそくギルドで依頼を物色していたが…


ペキとマツは冒険者ギルドを素通りして武器屋へと向かった。(武器屋は冒険者ギルドの隣である。)




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る