第19話 勇者と聖女街へ
タイガ「あれが街か…?」
タイガは御者席のさらに上、馬車の屋根の上に座っていた。
ニコ「ん~どれ? あ、ホントだ~なんか壁が見えるよ?」
ニコは荷台から身を乗り出して前方を見る。
実は森から戻る途中、オーガの群れに襲われている商人の馬車に遭遇し、それを助けたのだ。
商人の雇った護衛はほぼ全滅、あわやと言うところをタイガに救われた形である。(【森の涼風】の三人ではさすがにオーガの群れには勝てない。だがタイガが一人で群れに突っ込んでいき、無双したのだ。)
タイガ「お前ら、キリキリ歩けよ?」
馬車の周りを徒歩で歩いている【森の涼風】の三人を誂うタイガ。
実はタイガはここまででかなり増長していた。森から戻る途中も何度か魔物に遭遇したが、その度にタイガが無双し、どんどん調子に乗って行ったのである。
しかも、助けた商人が太鼓持ちタイプで、タイガが勇者だと聞いて、ひたすらおだて上げたのだ。
タイガ「日本で猫を殺して回った時には警察が出てきて面倒な事になったが、こっちの世界は殺せば殺すほど褒められるみてぇだ。いいな、イセカイ!」
※タイガは子供の頃から残虐性が高かった。近所の猫を捕まえては残虐に殺していたのだ。タイガの近所の公園で矢ガモが発見された事もあったが、それもタイガの仕業であった。動物虐待はタイガが日本で行っていた悪行の一つでしかない……。
街に近づいた馬車は入場待ちの列に向かったが、別の方から来た馬に乗った冒険者達と一緒になった。ハゲマッチョな冒険者ギルドのマスター、スナフスキンとその護衛の冒険者達である。
スナフスキン「おう、バル達か。今日は商人の護衛か?」
バル「いや、たまたま森の中でオーガの群れに襲われているところに遭遇してな」
スナフ「オーガの群れだと?!」
バル「ああ、いや、群れは全滅させた。俺達じゃない、異世界から来た勇者様がな…」
スナフ「勇者だと!? それはどこに!?」
バルが馬車の上を指差すと、ふんぞり返ったタイガが居た。
スナフ「お前が勇者か? 確かに見たことない服を着ているな…」
タイガ「おっさん誰だよ? まず自分から名乗れっつの」
スナフ「ああ、俺はスナフスキン。この街の冒険者ギルドのマスターをやっている」
タイガ「冒険者ギルド? 良く分かんねぇけど偉い人なのか?」
スナフ「別に偉くはないがな」
タイガ「なんでぇ。で、俺になんか用か?」
スナフ「もしお前が本当に勇者なら、王が探していたぞ」
タイガ「王?」
ニコ「王様キター」
実はギルマスは、隣町に呼び出され、王宮騎士団と冒険者ギルドによる魔王軍対策会議に出席した帰りであった。
このノクギーガの街の隣の隣の街が、魔王軍との戦いの最前線なのである。
そして、王国軍は魔王軍に対してかなりの劣勢を強いられていた。このままでは最前線のウスルーの街が落とされかねない。
そこで、王国は腕に覚えのある冒険者達にも戦争に参加してほしいと呼びかけたのだ。
と言っても、実は実力のある冒険者で愛国心の強い者、功名を欲する者は既に皆、志願して戦争に参加している。残っているのは腕は立っても偏屈な者か、初心者~中堅どころの冒険者だけなのである。
仮に、残っている冒険者をすべて投入したとしても、犬死になる可能性が高い。魔物よりはるかに強い魔族との戦闘に耐えられる者は多くないのだ。
正直、その程度の策では焼け石に水。列席した各街の冒険者ギルドのマスター達も渋い顔であった。
ただ、王もこのまま魔族に占領されるつもりはないという話である。王宮で勇者召喚の儀式を執り行ったという話が明かされた。
だが、儀式は成功したはずなのだが、肝心の勇者がどこに召喚されたのかが分からないと言う。そこで各ギルドに、勇者を発見し次第、王宮に知らせるようにという通達が伝えられたのであった。
そして、勇者が発見されるまで、なんとか戦線の維持に強力してほしい、という話であったのだ。
スナフ「もし、本当に勇者なら、早急に王に報告をせねばならんが…」
バル「残念ながら、実力はホンモンだったぜ、ギルマス。一匹でも手こずるオーガの群れを、奴一人で殲滅したのをこの目で見た」
魔物を倒す度、経験値が入る。そして、勇者補正によって通常の十倍の急成長を成し遂げていたのだ。
スナフ「バルがそういうのなら確かなのだろうな。急ぎ、王宮へ早馬を出す事にしよう」
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スナフ「というわけでな。王宮から迎えが来るまで二人を街に留めおく必要があったんだが、その間の二人のワガママが酷くてな…」
ペキ「ワガママ、でござるか?」
スナフ「ああ。これでも街で最上級の宿に泊め、食事も最上級のものを与えていたんだ。それなのに、飯が不味いだの風呂がないだの、ジョウゲスイドーだとかスマホだとか訳の分からん事ばかり言いおってな…」
スナフ「娯楽がない、退屈だとも言っていたな。男のほうは、森に連れて行って魔物を倒させたら気分良く暴れていたようだが。女のほうは治癒魔法が使えるというので教会に行かせて治療の手伝いをさせようとしたんだが、タダ働きは嫌だと言い出してな…」
ペキ「あー」
マツ「なるほど…」
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