第18話 もう十分だ、死んでる

豚顔オーク「ブギギギ…」


バル「クソ、オークにこんな近くに接近されるまで気づかないとは…」

アン「ただのオークじゃない! ハイオーク…!」


武器を構えながら引き攣るバル達。オークごときには負けないだけの実力がある三人だが、ハイオークとなると侮れないのだ。


だが、いきなりデカイ男? に睨みつけられ、タイガは咄嗟に反応して睨み返してしまう。


タイガ「ああ?! あんだてめぇ、やるってのか?!」


至近距離で睨み合うオークとタイガ。


バル「馬鹿、逃げろ! 素手でどうする気だ?!」


オークがタイガの挑発に反応し、雄叫びをあげながら手に持っていた剣を振り上げる。そして当然、振り上げられた剣は、タイガに向かって振り下ろされるが…


タイガは剣を持つ手首を掴み攻撃を止めると、反対の手でオークの顔面を殴りつけた。するとなんと、オークの巨体がタイガのパンチ一発で地面に転がってしまう。


タイガ「弱ぇ癖に粋がってんじゃねぇよオッサン!」


バル「……!」

メロ「おい、すげぇな、一発かよ…」

アン「勇者って、本当かも?」


だが、さすがにハイオーク。パンチ一発で倒せるほど弱くはなく、怒りの形相でタイガを睨みつけてくる。


そして素早く立ち上がったオークが猛然とタイガに襲いかかってきた。


タイガ「おわっ! っと! おおっ! てめえ、武器使うとか卑怯だろがっ!」


オークが凄い勢いで振り回す剣を、タイガは持ち前の反射神経で躱し続けるが、さすがに分が悪い。


バル「これを使え!」


バルが持っていた剣をタイガに投げ渡す。そんな事せずとも加勢してやるだけで良さそうなものだが、バルはハイオークを殴り倒したタイガの力をもう少し見てみたくなったのだ。


バルが投げ渡した剣をキャッチし、オークの剣撃を受け止めたタイガ。鍔迫り合いになるが、自分より二回りは大きいオークを相手にタイガは負けずに押し込んでいく。


バル「すごい怪力だな…」


オークを突き放したタイガが力任せに剣を叩き着け始める。剣筋は酷い。技術などなく、ただ力任せに剣を繰り返し振り下ろしているだけなのだが、そのパワーはかなりのもので、オークは勢いに飲まれ劣勢に陥っていき、ついについに膝をつく。


それでも構わず乱暴に剣を叩きつけ続けるタイガの剣撃に、ついにオークの剣が折れてしまう。だがタイガは止まらない。次の攻撃がオークの頭に叩きつけられ、オークは頭を割られた。


ニコ「ちょ…タイガ…?」

バル「おい、もう十分だ、死んでる」


タイガは動かなくなったオークの上から何度も何度も狂ったように剣を叩きつけていたが、後ろからバルに肩を掴まれてやっと止まった。


振り返り、ニコに向かってドヤ顔をするタイガ! 


ニコ「そのオッサン? 殺しちゃったの? ヤバクね?」


タイガ「…まずかったか? でも殺らなきゃ殺られてたしな。正当防衛だろ?」


バル「何も問題ない」

アン「むしろグッジョブ」

タイガ「だよな」


『ブギギギ…!』


メロ「ちっ、当然仲間が居るよな…」

アン「あっちよ」


タイガがアンが指さした方向を見ると、先程よりは一回り小さい豚男が十数匹、こちらに向かってきていた。


だが、オーク達はハイオークが血濡れで倒されているのを見て足を止める。


バル「さっきのはコイツラのボスだったのかもな」

メロ「ボスが倒されて怖気づいたか?」


一瞬逡巡したオーク達だったが、その中の一匹が何か叫ぶと、一斉にタイガ達を取り囲むように動き始めた。


アン「数が多いわね…どうする?」

メロ「どうにも…倒すしかないだろ」

バル「剣を…」


タイガから剣を返してもらおうかと思ったバルだったが、剣はタイガが乱暴に扱ったせいで刃こぼれしボロボロになってしまっていた。


タイガ「なんだ? コイツラも、やるってのかぁ?!」


バル「ああ、殺らなきゃ殺られる…」


それを聞いた瞬間、ヒャッハーと叫びながらタイガは取り囲むオークに斬り掛かっていた。


メロとアンも素早く動き始める。メロは短槍、アンは弓でオークを仕留めていく。バルも腰から短剣を抜き、近くに居たオークに向かった。


   ・

   ・

   ・


戦闘はタイガの大活躍によってあっという間に終わった。6~7割はタイガが倒してしまった。


タイガ「なるほど、これが異世界ね…。ヘヘヘ、いいね、楽しいじゃねぇか?」


興奮したタイガが獰猛な顔で笑う。


バル「やれやれ、剣がボロボロだ…高かったんだぞ、この剣」


タイガから剣を返してもらったバルが嘆く。モノが良かったため、タイガの乱暴な扱いでも折れずに済んだのだが、刃こぼれして斬れなくなってしまっていた。


アン「アンタ、やるじゃない。勇者って本当みたいね」


メロ「って事は、聖女ってのも…?」


ニコ「?」


メロ「聖女って事は、治癒魔法が使えるんだろう? 怪我を治してくれよ」


メロが腕を差し出してきた。かすり傷ではあるが、戦闘中に怪我をしたようだ。


ニコ「チユマホウ?」


タイガ「やってみろよ。チー牛だかなんだかをくれるって言ってたじゃねぇか」


ニコ「…チー? トね。やってみる…」


ニコがメロの腕に手を翳し、『治れ』と小さく叫ぶと、ニコの手から光が出てメロの腕に吸い込また。


メロ「おお! 治ってる! 凄いな!」


アン「ちょっと、聖女様の治癒魔法をそんなかすり傷で……」


ニコはタイガに近づき、タイガの傷を治し始めた。(こちらもかすり傷が何箇所かあっただけであるが。)


タイガ「おお、これが聖女の力? すげぇな、ニコ」


ニコ「だしょ~? えへへ」


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