第16話 おめでとう、今日から冒険者

ストーク「言われた? 誰に?」


ペキ「オサムサンでござる」


ストーク「オサムサン?」


ペキ「オサムサンでござる」


マツ「ああ、あのですね、神の代理と書いて……えっと、私達の世界の言葉で、神様の代理、というような意味なのです」


ペキ「でござる」


ストーク「神様に会ったのか?!」


ペキ「会ってないでござる。会ったのはオサムサンでござる。神代理でカミシロオサム」

ペキ「通称オサムサン」

マツ「不思議な方でしたね」


ストーク「神の使いに遭ったと言う事か。その方が、人間たちを救うために勇者を遣わして下さったと…」


ペキ「まぁ、そんな認識であっているのではないかと、思うでござる」

ペキ「拙者たちも詳しい事情はあまりよく知らないでござるよ」


ストーク「そうか……。街に戻ったら今の話をもう一度ギルマスにしてくれるか? 俺には手に余る話なんでな。あとはギルマスに任せよう。うん。それがいい…」


森から出て街に戻る一行。その列からわざと少し遅れるようにして、ペキはマツに話しかけた。



ペキ「マツ殿…勇者についてなんでござるが…。オサムサンが言っていた事を覚えているでござるか?」

マツ「えっと、何の事についてですか?」

ペキ「あの二人には魔王を倒す使命が与えられているはずでござる。ぜひとも頑張って頂きたいところでござるが、もし万が一、彼らが失敗した場合…」

マツ「ああ、ペキさんが後始末をしろって言われていたんでしたっけ?」

ペキ「拙者だけじゃないでござる! マツ殿も一緒でござるよ!」

マツ「え~? 言われていたのはペキさんだけだった気がするんですが…?」

ペキ「そんな事ないでござる。一緒に転移してきたのだから冷たいこと言わないでほしいでござる」

マツ「ははは、冗談ですよ。私もこの世界ではペキさんが頼りですからね。頼るだけ頼って突き放す事はできません。ただ、私ごときが力になれるか分かりませんが…」

ペキ「マツ殿はきっと力になるでござる。テイマーとして、強力な従魔を手に入れるでござるよ…」

マツ「私はバリーさんだけで十分ですが」


ペキ「まぁそれはともかく」

ペキ「勇者が失敗したら云々という話は、秘密にしておいたほうが良いと思うでござる」

ペキ「下手に最初からそれが伝わってしまうと、色々と問題がありそうな気がするでござる」

ペキ「現状ではまだ拙者の空間魔法もレベルが低すぎて、魔王どころか普通の魔物にも勝てないかも知れないでござるし…」

マツ「先程は見事、あの大蛇を倒したじゃないですか」

ペキ「魔王はあの程度の魔物とは比べ物にならないくらい強い、はずでござる」

ペキ「勇者が使命を成し遂げるのを祈るでござるが、万が一のために、拙者達も急ぎレベルを上げておくべきでござろうな」

マツ「なるほど…のんびりはしていられない、と?」


ペキ「…とは言え、先程の大蛇を倒した事で、拙者大幅にレベルアップしたでござる。異世界に来てまだ二日目にしては、順調に成長していると言えるのではなかろうか」

マツ「私もレベルがあがりましたよ、1だけですけどね」

ペキ「マツ殿も、今後、魔物をもっと倒してレベルを上げる必要があるでござる。どこかでパワーレベリングできるといいのでござるが」

マツ「パワー…?」

ペキ「パワーレベリング。要するに、大量に魔物を倒して一気にレベルアップを狙うという事でござる」

マツ「なるほど…」

ペキ「そろそろ着くでござる」

マツ「そうですね」


遠くに見えていた城壁がかなり大きくなっていた。先頭のストークが間もなく門に到着してしまいそうなので、ペキとマツは歩を早めた。






冒険者ギルドに着くと、ストークは受付嬢に手短に指示を出し、ギルマスの執務室に入ってしまった。


受付嬢が研修参加者達に集まるように言った。見れば、受付嬢はカウンターの上に水晶玉を置いている。そして、一人ずつ水晶玉に触れるように言った。


受付嬢が台座にカードを差し込み、先頭の参加者が玉に触れる。


僅かに玉が光り、すぐに収まった。


すると受付嬢はカードを抜き取り参加者に渡す。


受付嬢「おめでとうございます~。研修を終えたので、正式に身分証明書ギルドカードが発行されま~す。失くさないようにして下さいね~」

受付嬢「失くした場合は速やかにギルドに届け出て下さ~い。報告なしで誰かに悪用された場合、責任は持ち主に掛かる事になりますので~」

受付嬢「あ、再発行には手数料が掛かりま~す、あしからずご了承願いま~す」


順番にカードを受け取っていく参加者達。


ペキ「今日はミムリィではないでござるな」


受付嬢「今日はミムリィさんはお休みですよ~残念でした~」


ペキ「別に残念と言う事はないでござるが」


受付嬢「私はピーナ、ピーナちゃんと呼んで下さっていいですよ~」


ペキ「ピーナ殿でござるな、よろしくでござる」


ピーナ「~殿?」


ペキが水晶玉に触れると、一瞬強く光って、すぐに消えた。


ピーナ「あら? あなたはかなり強い魔力をお持ちのようですね~」


ペキ「そうでござるか?」


ピーナが手招きし、小声で言った。


ピーナ「冒険者の個人情報なので~本人にだけお見せしますね~」


ピーナがカウンター側の水晶玉台座に表示されている測定値を見せてくれた。そこには5000と表示されている。


ペキ「拙者には基準が分からんでござるが、これは多いのでござるか?」


ピーナ「かなり…?」


ストーク「ふん、やはり、普通じゃないようだな。ペキとマツだったな? ギルマスが呼んでいる、来てくれ」


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