第14話 バカヤロー! 逃げろと言っただろうが!
ダビルヴァイパーは、猛毒を持った大蛇である。もちろん、ただの蛇ではなく魔物である。
その危険度はB+。(Aに近いBである。)
元Aランクであっても、もはや現役を退いたストーク。しかもストークは遠距離攻撃の手段を持たない戦士タイプである。一対一では苦戦する可能性が高い。
ダビルヴァイパーの毒は猛烈で、噛まれれば数秒で死に至ると言われている。また、噛みつくだけでなく、毒を注入する牙を相手に向けて、毒を射出してくる。
まだゴブリン・リーダーと威嚇しあっていて、ヴァイパーの敵意は人間達には向いていない。リーダーが逃げてそれをヴァイパーが追う展開になれば、逃げられるのではないか?
だが、ストークの期待は儚くも裏切られた。
愚かにも、ゴブリン・リーダーは格上のダビルヴァイパーに向かって攻撃を仕掛けた。だが、尻尾の一撃であっさり弾き飛ばされ……しかもよりによってストーク達の居る場所に転がってきてしまったのだ。(今の一撃でゴブリン・リーダーは死んでしまっていた。)
そのせいで、ストーク達は完全にターゲットとしてロックオンされてしまった。しかも、ヴァイパーはヨダレを垂らしていかにも空腹という様子である。
そもそも、ゴブリンは上位種であろうとも不味い。それは魔物にとっても同じ。逆に、人間は魔物にとっては極上の味がすると言われている。
大蛇の視線からは、ストーク達は完全に食料としてしか認識されていなかった。
ストーク「くそ、お前達は逃げろ! ここは俺がなんとか時間をかせ~」
だが、そういった瞬間にはヴァイパーは既に眼の前まで迫っていた。
ヴァイパーの牙を剣で辛うじて弾いたストーク。だが次の瞬間には、尻尾の攻撃が横から襲ってくる。それを辛うじて飛び退いて躱すストーク。
新人の冒険者達は足が竦んで動けなくなっている。
バリーさんが背中の毛を逆立ててシャーと威嚇していたが、ヴァイパーに睨まれて即座にマツの背後に逃げ込んでしまった。
※バリーさんは日本に居た頃から、かなりのビビリであったそうだ。
バリーさんの威嚇に腹が立ったのか、ヴァイパーが口を大きく開き、牙をマツのほうに向けてきた。
ストーク「突っ立ってんじゃねぇ!」
ストークが体当たりをするようにマツを突き飛ばすと、マツが居た場所を射出された毒液が通過していく。
毒液が撒かれた地面が溶けて泡立っている。
ストーク「早く逃げろ!!」
再び大口を開けるヴァイパー。新人たちを庇いその前に立ち塞がるストーク。
そこに再び毒液が射出される。
ストークは毒を浴びるのも覚悟の上であった。避ければ背後にいる新人達に当たってしまう位置だったからだ。自分は死ぬことになるだろうが、なんとかして新人達を助けなければならない。自分は教官であり、サブギルドマスターなのだ。
ダビルヴァイパーの足は恐ろしく速い。とても新人達の足では逃げ切れないだろう。だが、自分が餌となれば、それを食べている間、少しだが時間を稼げる。
もちろん、ただ黙って餌になるつもりはない。食われながらでも抵抗を続け、食べにくくする事ができれば、さらに時間が稼げるだろう。その間に新人達が逃げ延びられる可能性は高くなる。
顔を手でガードし、魔力による身体強化を発動して防御を堅め、毒に備えたストークであった。
だが…
…いつまで経っても毒液が来ない。
目を開けてみると、ストークを庇うようにペキが立ちふさがっていた。
そしてペキは、射出された毒をまともに浴びていた。
ストーク「バカヤロー! 逃げろと言っただろうが!」
そう言ってもおそらくもうペキは聞いてはいまい。新人の冒険者がヴァイパーの毒をまともに浴びれば、一瞬で絶命してしまった可能性が高い。
だが、続けて信じられない事が起きる…
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