第12話 異世界剣術
ストーク「剣は上から振り下ろすのではなく、水平に振るんだ! 何故だか分かるか?」
ペキ「なぜでござるか? 拙者、基本の素振りはこうやると教わったでござるが…」
ストーク「…ふん。都のほうでそういう流派があるらしいがな。そのせいで勘違いしてる奴が時々居るんだが、俺が教えるからには、それは間違いだ」
ストーク「試してみれば分かる。お前、前に出てこい。そしてさっきと同じ様に俺に向かって上から下に斬り掛かってみろ」
言われたとおり、ペキは前に出てストークに向かって構えると、剣を振りかぶり振り下ろした。
だが、さすがは教官。半歩横に動いただけでペキの木剣の軌道を躱すと、そのまま木剣をペキの首に当ててみせた。
ストーク「今度は腰のあたりを狙って水平に斬りかかってみろ」
言われた通り斬りかかると、ストークはペキの木剣を剣で受け止めた。
ストーク「な? 縦に剣を振れば、見切られれば反撃を食らう可能性がある。だが、水平に振った場合は、受け止めるか飛び退くかしか選択肢がなくなるから、反撃を受けにくいんだよ」
ペキ「なるほど…!」
ストーク「それに、上から斬るって事は頭を狙う事になるが、堅い頭蓋骨を斬るのはリスクがある。まぁ上からも下からも必要に応じて臨機応変に使えばいいが、基本、水平に振っておけば敵は近づけないってことだ」
ストークが教えてくれる剣術では、基本、右か左に移動しながら水平に剣を振るのが基本になるそうだ。横に移動するので相手の攻撃も受けにくくなるし、相手を寄せ付けないので安全に戦う事ができるのだそうだ。
ゴブリン程度であればこれで十分だとストークは言う。ゴブリンは基本、棍棒が武器なので、頭を狙って上から振り下ろしてくる事が多いのだ。そういう相手には横に踏み出しながら水平に剣を振る技は相性が良いらしい。
それから、水平斬りの欠点・弱点とそれを補うような動きを教わった。例えば、魔物は上下にも高速移動可能なタイプが居るので、そういう相手には水平斬りが通用しないなど。まぁそういう相手には垂直方向の攻撃も通用しないのは変わらないので、剣で対応するのには限界があるという事で、魔法による範囲攻撃等、別途対策を考える必要があるとしか言えないのだが。
その後、一通りの講義が終わってから、ストーク相手に順番に模擬戦を行う事になった。
純粋に剣の練習ということで、魔法やスキルは使用禁止であった。ペキとマツも素直に指導に従い、熱心に剣の練習をした。
異世界の剣術はペキの知っているモノとは大分違っていたが、それは当然であろう。地球の剣術は基本、対人技術なのである。異世界の、冒険者の剣は、魔物と戦う技術なのだ。
ペキ「……そう言えば、槍は使わないでござるか? 敵との距離を保ちながら攻撃できるので、初心者向きかと思ったのでござるが…」
ストーク「ああ、槍はダメだ。剣でも同じだが、魔物の筋肉ってのは、刺されると硬直して抜けなくなっちまうんだよ。ゴブリン程度なら問題ないが、コボルトやオークだと筋肉も硬いからな」
そう言えば、初めての戦闘でペキも一瞬、剣が抜けなくて焦ったのを思い出した。あの時は地面にまで剣が突き刺さっていたからなのだが、なるほど、ランクの高い魔物相手だとなかなか抜けなくなるのかも知れない。
ストーク「だから基本、突きは使わないほうがいい。万が一刺してしまっても、剣なら足で蹴って抜く事もできるが、距離がある槍だと却って隙ができやすいんだよ」
ペキ「なるほど、頭で考えたようには現実は行かないのでござるな…」
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やがて午後の練習の終了時刻が来た。明日は街を出て実地研修となるそうだ。
ペキ「すっかり汗をかいてしまったでござるな。シャワールームとかないのでござるか?」
ストーク「シャワー? なんだそれは?」
ペキ「風呂とか、身体の汚れを落とす浴室のような場所はギルドにはないのでござるか?」
ストーク「そんなものはない。井戸なら訓練場の横にあるが。風呂など、貴族か豪商の家にしかないぞ?」
ペキ「なんと、それではみな、汗をかいたらどうしているでござるか?」
だが見れば、汗をかいているのはペキとマツだけで、ストークも他の参加者も汗などかいていない。
ストーク「なんだ、お前らもしかして【クリーン】が使えないのか?」
ペキ「おお、もしかて、浄化の魔法でござるか!」
試しにペキは魔力を意識しつつ【クリーン】と唱えてみると、身体の汗や汚れが消え、不快感がなくなった。
ペキ「なるほど…。この世界には風呂はないパターンでござったか」
マツも真似してみると、同様にできた。
マツ「おお、これは…。便利ですね」
マツ「そう言えば宿にも風呂のような施設はありませんでしたね…。昨晩は疲れていたので気絶するように眠ってしまいましたが」
マツ「でも、風呂がないとちょっと味気ないですね…」
ペキ「ストーク殿の言い方だと、風呂が存在していないわけではないようでござるから、まぁそのうちどこかで…」
マツ「貴族を目指しますか?」
ペキ「うーん、貴族は貴族で面倒事が多いというのが定番でござるから、それはどうですかなぁ……」
マツ「では金持ちを目指しますか」
ペキ「まずは冒険者として稼ぐでござるよ」
その日もよく体を動かし、良く食べ、そして直ぐに寝た二人と一匹。(バリーさんはほぼ一日ゴロゴロしていただけであるが。ちなみにバリーさんにもクリーンを掛けてみたところ、すっきりフワフワになり、抱き心地が良くなり、マツさんは気持ちよさそうに抱いて眠ったのであった。)
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さて、翌日は街の外の森に入り、実地研修である。
武器を持っていないマツは、ギルドになる数打ちの鉄の剣を貸し出してくれた。
ストーク「ん? お前はいいのか?」
ペキ「拙者はこれがあるでござる」
ペキは亜空間収納から大剣を取り出して見せる。ゴブリンが持っていた大剣である。
ストーク「お前、収納魔法が使えるのか! 珍しいな。便利だよな。採集依頼とかでも重宝される」
ペキ「戦闘にも使えるでござるよ?」
ストーク「ああ? うん、まぁ、武器を色々携帯できるから、工夫次第では役に立つかもな…だが、武器の熟練には時間が掛かる。あまり多くの種類の武器を持っていても使いこなせなければ意味はないからな。何を持つか良く考えないといかんだろう。それにそもそも、そんなにたくさん
ペキ「ああ、いや、今はまだ、この大剣一本と後少し荷物が入る程度でござるが…」
ストーク「そうか、まぁ、かさばらない武器とか色々工夫するといいかもな…今度相談に乗ってやるよ…」
ペキ「そ、そうでござるな…」
微妙に悔しそうなペキであった。
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