第11話 お前ら! 冒険者になりたいかぁーーーー?!
■翌朝
宿の朝定食は銅貨一枚であった。(宿泊客以外は二枚。)
宿泊客以外の客もひっきりなしで、食堂としても繁盛しているようである。
ペキとマツは朝食を済ませた後、やる事もないので冒険者ギルドに行ってみた。
昨日講習があると言われて来た訳だが、朝は依頼の受注処理等で混雑しているので、もう少し後に来てほしいと言われてしまったので、街の市場に行ってみることにした。
様々なモノの価格を尋ねて回った結果、どうやらこの世界、生活必需品とそれ以外の贅沢品の価格差が非常に大きいようであった。生活必需品の価格を基準にしてしまうとそれ以外の品目の値段はその4~10倍という感じである。
贅沢せずに最低限、普通の生活をするだけならそれほど金は掛からないが、少しでも良いものを手に入れようとすると一気に価格が跳ね上がる。
色々リサーチした結果、生活必需品は日本の半額以下、贅沢品はその倍以上という感覚が程よいとペキは判断した。
ペキ「巾着に入っていたのが小金貨四十枚でござるから、約四十万円」
ペキ「ただし、生活費は安い、日本と比べると半額くらいな感じがするでござる。生活費として考えると八十万円くらいかも知れんでござるが」
ペキ「いきなり異世界に放り出されて生活費としては妥当でござろうか」
マツ「一泊銀貨二枚、食費と合わせると……」
ペキ「一日の食費が銀貨一枚として、一日銀貨三枚。十日で銀貨三十枚つまり小金貨三枚。九枚くらいで一ヶ月くらい生活できる計算でござるな」
ペキ「まぁ、この世界の一ヶ月が30日かも分かっておらんのでござるが」
マツ「ああ…異世界。なかなか慣れませんね。地球なら、たとえ海外旅行に行っても暦や時間は普通、同じですからね」
ペキ「とりあえず、一日銀貨三枚なら、それほど慌てる必要はなさそうでござるな」
マツ「そうですね。っとそろそろ、いい頃合いじゃないですか? むしろちょっと遅くなってしまったかも?」
ペキ「時計がない世界なので時間がよく分からんでござるな…」
マツ「少し急ぎましょうか」
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■冒険者ギルド
ミムリィ「あ、ペキさん、遅いですよ! もう始まりますので会議室へ急いで下さい!」
ペキ「すまんでござる」
マツ「すみません」
バリー「にゃ」
ペキ(遅いと言われても、時間の指定もなかったし、時計もないのだからどうしようもないでござるが…)
ミムリィ「何か言いました?!」
ペキ「何も言ってないでござる」
ミムリィ「そうですか」
ミムリィに指示された会議室へ入ると、反対側のドアが開き、教官? が入ってきたところであった。
そそくさと空いている席に座るペキとマツ。見渡すと他に数人、若い冒険者が座っていた。
教官「俺はこのギルドのサブマスターのストークだ! お前ら……冒険者になりたいかぁーーーー?!」
ペキ「お……おう?」
ストーク「声が小さいゾー! 冒険者になりくないのかーーーー!?」
「「「「「おう!」」」」」
ストーク「なりたくないのかと聞かれて返事する奴があるかーーーー!」
ペキ「…なんかちょっと面倒くさいタイプでござるな……」
マツ「確かに…バス会社に就職する時に受けさせられた体育会系の研修を思い出します…馬鹿みたいに社訓を大声で読まされたり、歌を歌わされたり、マラソンさせられたりしたんですよ……」
ペキ「あー、たまに聞く話でござるな…」
だが、教官のストークに暑苦しい圧は感じたものの、その後の研修では意味不明の鍛錬をさせられるような事はなかった。むしろ、冒険者として知っておくべき基礎知識であり、ペキはともかくマツはきちんと聞いておくべき内容であったのだ。
ストーク「お前達、冒険者の仕事ってのはなんだ? まぁ、依頼されればなんでもやる、なんでも屋みたいなところはあるんだが…基本的には街の外を闊歩する魔物を退治する、それが仕事だ」
ストーク「薬草採集などの依頼も大事だが、薬草を取りに森へ行けば魔物に遭遇する可能性もある。だが、魔物は危険だ。油断すればすぐに命を落とすことになる。俺はお前らに死んでほしくない。だから注意事項を良く聞いておけ」
そこからは、街の周辺にある森に出没する魔物の種類と弱点、およその生息域。薬草採集のための植物の見分け方などが続いた。
ペキ「結構短時間の詰め込み講義でござるな。拙者はなんとなく知っているような内容が多いでござるが…」
マツ「私はとても、一度には覚えられそうにはないです…」
ストーク「ああ、今説明した資料はギルドの資料室に置いてあるから、いつでも見ていい。依頼を受ける時はちゃんと下調べをしてから行けよ」
その時、昼どきを知らせる金の音が聞こえてきた。
ストーク「よし、午前の部はここまで! 午後は実技だ」
昼食を食べたペキとマツはすぐにギルドに戻ることにした。日本であれば昼休憩の時間ギリギリまでゆっくりする所であるが、なにせ時計のない世界。また遅刻にならないようにと配慮したのである。
会議室に戻ると、既に他の参加者達も戻っていた。
程なくして、ストークも部屋に入ってくる。
ストーク「お、全員揃っているな? 感心感心。少し時間には早いが、午後の講義に入るか! 全員裏の訓練場へ移動だ」
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■ギルドの裏手にある広場
参加者は木箱から木剣を取って感覚を空けて立つよう言われた。
ストーク「いいか! 魔物と戦って勝てる実力がない者を街の外に冒険者として出すわけにはいかんのだ!」
ストーク「この中に、魔物と戦った事がある者はいるか?!」
ペキが手をあげた。
ストーク「名前は? ペキ? それで何と戦った?」
ペキ「この街にくる途中の森の中で、ゴブリン三匹に襲われて倒したでござる」
ストーク「ふん。ゴブリンはうまくやれば子供でも勝てる弱い魔物だからな。その程度で負けているようでは困る。他には?! ゴブリンより強い魔物と戦った事がある奴は?!」
『オ、オラ、村でオーク狩りを手伝った事があるだ』
ストーク「ほう? 名前は? ヨサクル? それで、一人で戦ったわけではあるまい?」
ヨサクル「村の大人達が大勢一緒だったんで、オラは見張りとかしてただけだども」
ストーク「それは戦ったとは言えんな…まぁいい。いいか、初心者、つまりFランクの冒険者が受ける事ができる討伐依頼はゴブリンかスライムなどのいわゆるFランクの魔物だけだ」
ストーク「それ以上のランクの魔物、コボルトやオークを見かけたら、初心者だけで戦おうとするんじゃないぞ」
ストーク「ギルドに報告して上位ランクの者に倒してもらうんだ。逃げるのも立派な戦術だ」
ストーク「それじゃぁ、これから剣の使い方の基本を教えてやる。おいペキ! 剣を振ってみろ」
ペキは言われるままに剣を頭上に振りかぶり、振り下ろした。剣道は学校の授業でやった程度であるが、剣の振り方くらいは教わっている。ビュウと風を切る音がする鋭い振りであった。
が…
ストーク「それではダメだ! 剣は振り下ろすのではなく、水平に振るんだ!」
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