第10話 異世界の時間と物価
ミムリィ「冒険者登録及び従魔の登録は以上で完了です。これを猫ちゃんには着けてあげてくださいね」
渡されたのはメダル(従魔の印)のついた首輪であった。継目のないリングで、バリーさんには大きすぎるように見えたが…
マツ「おお…」
首に掛けてみると縮んでピッタリサイズになった。
ミムリィ「自動調節になっています。外す時は外そうと思えば大きくなりますよ。ただ、外した状態では、魔物として退治されても文句は言えなくなりますのでご注意を」
マツ「これ、成長して身体が大きくなったら首がしまってしまったりはしませんよね?」
ミムリィ「大丈夫ですよ、装着時同様、常に自動調整で追従するようになっています。戦闘時に身体の大きさが変わる従魔も居ますからね」
マツ「なるほど、便利なものがあるんですね」
マツ「一体どんな仕組みになっているのでしょうかね?」
ペキ「それは科学ではなく、魔法でござるからして、考えても無駄でござるよ」
マツ「なるほど、そういうものですかね」
ペキ「さて、やる事はたくさんあるでござるが、まずは宿を確保しに行くでござる」
ミムリィ「あ、次はいついらっしゃいますか?」
ペキ「明日にはまた来るでござる」
ミムリィ「そうですか。仕事を受ける前に講習を受けてもらう事になっていますので、それでは明日予約を入れておきますね」
ペキ「うむ、頼むでござる。拙者らも、色々教えてもらいたい事もいろいろあるでござるゆえ…」
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とりあえず冒険者ギルドを出た二人はミムリィに紹介された宿にやってきた。
ペキ「たのもー」
宿の親父「お、客か。食事か? それとも泊りか?」
ペキ「泊まりでござる。が、食事も食べたいでござる」
親父「では部屋に案内するから、その後食堂へ来て注文してくれ。食事代は別、食事なしの素泊まり一泊一人銀貨二枚だ」
ペキ「従魔も一緒で良いでござるか?」
親父「従魔は普通は厩舎なんだが、そんなちっこい奴なら部屋に入れても構わんぞ。ただし、汚すなよ? 汚したら弁済してもらうからな」
ペキ「食事の時間制限とかはあるでござるか?」
親父「年中無休、三十二時間営業だ」
マツ「三十二時間…?」
ペキ「おそらく…一日がこちらの世界では三十二時間なのではござらんか?」
マツ「なるほど、地球じゃないんですもんね…」
マツ「てか、三十二時間、結構長いですね」
ペキ「いや、そもそも、一時間が地球のそれと同じとも限らんでござるよ」
マツ「ああ……なんだか混乱いたしますね」
マツ「この世界の一時間、どれくらいの長さなんでしょうね?」
ペキ「…比較しようがないでござるね。時計でも持っていれば分かったのでござるが、転移してきた時に持ち物全部なくなってしまったので」
マツ「一時間はどれくらいの長さですか? なんて聞いても頭おかしいと思われそうですしねぇ」
ペキ「一分くらいならある程度分かるでござる。そこから推測すれば、かなりアバウトでござるがある程度の予測は着くでござろう」
マツ「一分? 感覚ですか? それとも正確に測る方法があるとか?」
ペキ「マツ殿も会社で健康診断受けていたでござろう? デジタル血圧計なら、測る時に脈拍も一緒に表示されていたはずでござる。拙者、健康診断を受けたばかりなので覚えているでござるよ。その脈拍数から一分を割り出せるはずでござる」
マツ「なるほど!」
マツ「…あれでも、そもそも身体が違うから、そのやり方では分からないのでは…?」
ペキ「……オーノウ! そうでござった! この身体、そもそも地球人と同じ構造かも分からんのでござった。平均心拍数など分からんでござるな…」
マツ「まぁ、なんとなくの感覚になりますが、60数えてみて、推測する事はできますかね」
ペキ「かなりアバウトになりそうでござるが…そもそも、この世界、時計ってあるのでござるかね?」
宿の親父に聞いてみた所、時計はあるにはあるらしいが、非常に高価で、領主の家などにあるだけだという。時間についてはだいたい、教会や領主の館、役所などに鐘があり、朝昼晩に鳴るのでそれを目安にしているのだそうだ。
親父「あんたらの
ペキ「拙者達のせか…国では、時計が普及していたでござるよ。携帯用の小型の時計をほぼ全員が身につけていたでござる」
親父「へぇ、時を計測する魔導具は結構高いのに、凄いな」
ペキ「いや、魔導具ではござらぬ。純粋に機械的な仕組みで…と言っても時計の構造など、拙者も詳しくは分からんでござるが…」
とりあえず、腹時計は有効なようで、部屋に案内された後はすぐに食堂に折り返して夕食にする事にした。
ペキ「これである程度、この世界のお金の価値が分かるでござるな」
マツ「ああなるほど、食べ物の値段で、この世界の物価が分かるというわけですね」
そう、時間も気になるが、それは分からなくとも慣れれば良い話。それより現実問題として知っておく必要があるのは貨幣の価値である。
マツ「宿の親父さんは一泊銀貨二枚と言っていましたが…」
ペキ「それだとイマイチ物価が分からんでござる。仮に一泊八千円……いや、宿のボロさからして六千、いや五千円くらい? とすると、銀貨一枚二千五百円くらいでござろうか…?」
親父「ボロ宿で悪かったな…」
ペキ「おっと、スマンでござる。悪気はないでござるよ」
親父「ふん、まぁいい、空いてる席に座りな。メニューは壁に貼ってある。決まったら叫んでくれ」
ペキ「ほう、どれどれ…」
ペキ「それでは…拙者は日替わり定食で!」
マツ「じゃぁ私もそれで」
日替わり定食は銅貨三枚であった。(ただし宿泊客は銅貨二枚でよいとの事であった。)
ペキ「しまった…。新しい通貨が出てきてしまった……」
会計の際に宿の親父に確認したところ、銅貨十枚で銀貨一枚。銀貨十枚で小金貨一枚だそうだ。
※ペキ達の財布に入っていた金貨は小金貨であった。
ペキ「まだおおよその推測ではござるが、
銅貨一枚:百円
銀貨一枚:千円
小金貨一枚:一万円
という感じでござろうか」
マツ「宿は一泊二千円? 安すぎませんか?」
ペキ「でも、ボロ宿で素泊まり。しかもギルドで安い宿と言って紹介してもらったのだから、そんなモノではござらんかな?」
ペキ「物価、生活費が日本よりかなり安いという可能性もあるでござる」
マツ「定食が一食三百円……まぁ確かに、日本でも昔は、そのくらい安い店もありましたよね」
ペキ「明日、街で売られているモノの値段を見れば、貨幣価値についてはもう少し感覚が掴めるでござろう」
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