第9話 冒険者登録

スナフスキン「おい、この二人を冒険者登録してやれ!」


受付嬢「承知いたしましたマスタースナフ」


ギルマスに命じられた受付嬢は笑顔をペキとマツに向けた。


受付嬢「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ」


受付嬢の胸には名札がついている。どうやらこの受付嬢はミムリィという名前のようだ。


ペキ「あ、あの…」


美人を前にコミュ障気味になるペキ。だがそんな反応にも慣れているのかミムリィは笑顔を返す。


ミムリィ「あら、可愛い猫ちゃんですね」


マツ「でしょう? バリーサンと言います」

マツ「従魔登録をするように言われたのですが…」

バリー「にゃ」


ミムリィ「従魔登録をするためには、まず冒険者登録して頂く必要があります。こちらに必要事項を記入して下さいますか?」


カウンターで手続きを始めた二人は気づいていなかったが、背後で室内に居た冒険者達がざわついていた。


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「おい、アイツら何もんだ?」

「ギルマスが直々に連れてきたんだ、タダモンじゃなさそうだな」

「しかも、人気ナンバーワン受付嬢のミムリィたん指名だぜ」

「冒険者登録しに来た新人みたいだが…まさか新人がいきなりミムリィ専属になるんじゃないだろうな?」


もちろん、すべてただの勘違いであった。


ギルマス・スナフスキンはたまたまギルドの外でペキ達に遭っただけだし、ミムリィを指名したのも、単にちょうど目についた手隙の受付嬢がミムリィだっただけである。


「そう言えば、この間ギルマスが連れてきた奴もおかしな奴だったよなぁ?」

「生意気な奴だったが、地力・・はあったな」

「そういやアイツ、どうしたんだ?」

「王宮から迎えが来て王都に行ったらしいぞ、ギルマスが連絡したらしい」

「へぇ。実は勇者だったとか?」

「さぁな。魔王軍にかなり押し込まれていて王も焦ってるって話だから、少しでも戦力が欲しいんだろ…」


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マツ「ペキさん、これって…日本語で書いていいんですかね?」


ペキ「…大丈夫じゃないかと思うでござる…多分? …自動翻訳機能も異世界あるあるでござるし…そもそも…申込用紙に書いてある文字も、読めている…でござる…」


マツ「言われてみれば確かに…」


申込用紙には各欄に何を書くのか指示が書いてあるが、当然みたこともない文字が並んでいる。にも関わらず、それが何を意味しているのか、ペキとマツにはなんとなく理解できるのだ。


マツ「というか大丈夫ですか? なんかいつもみたいなハイテンションな喋り方でなくなりましたが…?」


ペキ「じ、実は、拙者、仕事ができる美人の大人の女性が少々苦手で……」

ペキ「デモ! 大丈夫デゴザル! ダイブン慣レテキタデゴザル。精神耐性も転移チートに含まれているのかもしれんでゴザルナ!」


マツ「お、調子が戻ってきたようですね」

マツ「しかし、不思議な感じですね」


ペキ「ござるなござるな。まぁあるあるでござるな」


異世界の文字は、地球のアラビア語に似た曲線が多い難解な文字で、どこからどこまでが一文字なのかも判別が難しいのだが、不思議と意味は理解できるのである。


だが、読めても(読めはしないが意味は理解できても)、書くことができない。仕方なく、ペキ達は書類を日本語で書いてミムリィに出してみた。


ミムリィ「ペキさんですね、年齢は15と…」


ペキ「読めたでござる!」


ちなみに年齢はステータスに設定? が表示されていたのでそれを書いたのである。(マツは19と書いてあった。)


受付嬢「おや、住所の欄が空欄ですね。宿泊先の宿の名前でも構いませんので…どちらにお泊まりですか?」


ペキ「拙者達、さっき街に着いたばかりで、泊まるところも決まっていないでござるよ」

ペキ「安くて安全で快適で食事が美味い宿を紹介してほしいでござる」


ミムリィ「…そ、それでは、ギルドの裏にあるそよ風亭がオススメですよ」


ペキ「かたじけない、後で行ってみるでござる」


ミムリィ「では、“そよ風亭” と書いておきますね。宿泊先が変更になる場合はギルドにも報告をお願いします。冒険者の方にはギルドから緊急の連絡が行く場合がありますので」


ペキ「了解でござる」


ミムリィ「魔法属性は…空間魔法!? というと…? ああ収納魔法の事ですね? 他には、例えば火属性とか風属性とかは使えないですか?」


ペキ「今のところ、ないでござるね」


ミムリィ「そうですか…。まぁ、後から属性魔法が使えるようになる事も、稀ですがないとは言えませんからね…」


ペキ「空間魔法だけでは何か問題があるでござるか?」


ミムリィ「空間魔法…収納魔法は、たしかに便利な魔法ではありますが、攻撃魔法が使えないと魔物と戦う時に、少し、その、苦労する事になりますので…」


ペキ「それは誤解な気がするでござる。収納魔法だって使い方次第では十分戦えますぞ?」


ミムリィ「……ソウデスネ。ガンバッテクダサイネ。ただ、あまり無理はなさらないように、死んでは元も子もないですからね…」


ペキ「いやいや、たとえばですぞ?」


ミムリィ「それではマツさん!」


ペキ「スルーされたでゴザル」


ミムリィ「は…おや、テイマーですか?」


マツ「テイマーも冒険者には向かないですかね?」


ミムリィ「いえ、テイマーは従魔に戦わせれば良いので、自身がそれほど強い必要はないです」

ミムリィ「ただ、自身がある程度強くないと、強い魔獣をテイムできないのですが」

ミムリィ「でも、既に従魔をお餅なのですね。後で鑑定士に鑑定して貰う必要がありますね」


ペキ「マツ殿の従魔はお餅ではなくストームキャットでござるよ」

マツ「ペキさん誤字に突っ込んじゃダメです」


受付嬢「ストームキャット?!」


ペキ「風魔法が使えるでござる」


ミムリィ「それは素晴らしいですね。マツさんは冒険者としても一流になれるかも? いえ、きっとなれます、頑張って下さいね」


マツ「あ、ありがとうざいます」

ペキ「なんか拙者と扱いが微妙に違う気がするでござる」


ミムリィ(まぁ収納魔法じゃぁねぇ…)


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