第8話 北の妖精? いやギルドマスターでした
ペキ「うむ、やはり街も定番の城郭都市でござるな」
マツ「ジョウカクトシ?」
ペキ「危険な魔物がいる世界だからでござる。人間が住む街は高い壁で囲って、魔物が中に入らないようにしているでござるよ」
マツ「見た目は中世のお城みたいですねぇ」
ペキ「だいたい文化レベルも地球の中世と同程度、というのが定番でござるな。その場合、残念ながら日本に居た頃のような便利な生活道具はないと考えるべきでござろう」
マツ「不便な世界と言う事ですね」
ペキ「そうとも言えんでござるよ。科学が発展していない代わりに魔法がある世界でござるからな」
ペキ「魔法があるから科学が発達しにくいというのは異世界ファンタジーあるあるでござる」
城壁に近づくと、数人が門の前に並んでいたので、その後ろにペキとマツは並んだ。行列があればとりあえず並ぶのに抵抗はない元日本人の二人である。
徐々に列は進み、やがてついに二人の番になった。
ペキ「これも異世界定番の入城手続きでござるなぁ」
門番「身分証明書を見せろ」
ペキ「持っていないでござる」
マツも頷く。
門番「身分証がないだとぉ? …ボルスランあたりからの旅人か? 身分証がない場合は入城料が高くなるぞ?」
ペキ「仕方ないでござるね」
ペキ「いくらでござるか?」
門番「一人銀貨一枚だ」
ペキ「ちなみに、身分証があるといくらになるでござるか?」
門番「商業ギルドの身分証なら一人銅貨1枚、冒険者ギルドの身分証があればタダだ」
ペキ「うんうん、あるあるでござる」
身分証がない事で怪しまれるかと思ったが、金さえ払えば入れるならばありがたい。お金を持たせてくれたオサムサンに感謝しながら金を取り出したペキであるが…
ペキ「あいにく、金貨しか持っていないでござる…」
門番「ああ、釣りはたくさんあるから構わんぞ」
門番「だがその前に、これに触れてみろ」
門番が示したのは、机の上においてある水晶玉。
ペキ「これも定番でござるな」
素直に触れるペキ。特に何も起こらない。
マツも門番に促されて触れてみるが何も起こらない。
マツ「…これはなんですか?」
ペキ「おそらく犯罪歴とかあると反応するのではないかと」
門番「そうだ。何も反応がないなら金を払って入っていいぞ」
ペキとマツはそれぞれ金貨一枚を払ってお釣りを貰った。金貨を崩したかったので個別の会計とさせてもらったが、特に嫌な顔はされなかった。
貰ったお釣りは銀貨九枚。つまり、金貨一枚=銀貨十枚という事のようだ。
門番「ん? お前が抱いているのはなんだ? 魔物じゃあるまいな?」
ペキ「マツ殿の従魔でござるよ」
門番「従魔か。しかし従魔の証がないようだが? 持ってない? じゃぁ仮でコレをぶら下げておくといい」
そう言って門番は札がついた首輪を渡してくれた。
門番「街に入ったら冒険者ギルドに登録して身分証を貰い、従魔登録をしておけ。まだ小さいようだが魔物だからな、ちゃんと登録しておかないと退治されても文句は言えなくなるぞ」
マツ「ご親切にありがとうございます」
バリー「にゃ」
門番「登録したら、仮の印は暇なときに返しに来ればいい。ただし、失くしたら罰金だからな」
ペキ「それで、冒険者ギルドはどこでござるか?」
門番「あそこだ、見えるだろう?」
ペキ「かたじけないでござる。ではマツ殿、まずは冒険者ギルドに行くでござるよ」
マツ「了解です」
バリー「にゃ」
ペキ「バリーさん、すっかり元気になったようで、良かったでござるな」
教えてもらった冒険者ギルドの建物に近づいていくと、ぶら下げられている看板に、ドラゴンの前に剣と盾が描かれているのが見えた。
ペキ「ドラゴン…? ああ、剣と盾だけだと、武器屋になってしまうからでござるか」
見ると、冒険者ギルドの隣に武器屋があり、その看板には剣と盾が描かれていたのである。
ペキ「ドラゴンを倒すのが冒険者のお仕事というわけでござるか…」
『バカ言え、ドラゴンなんてそうそう人間が倒せるわけねぇだろ』
後ろからそう言われペキが振り返ると筋骨逞しいスキンヘッドのオッサンが立っていた。
ペキ「そうなのでござるか?」
スキンヘッド「まぁ、目標というか、憧れみたいなもんだ。いつかはドラゴンだって狩ってやるっていうな…」
スキン「てか、そんな常識も知らないお前らは旅人か? 冒険者ギルドに何の用だ?」
ペキ「身分証がないと言ったら、冒険者ギルドで登録すればよいと門番殿に教えられて来たでござる」
スキン「ああ…ったく。冒険者ギルドは身分証発行のためにあるんじゃねぇんだけどなぁ…。冒険者としてちゃんと仕事をしなければ資格はすぐ剥奪されちまうんだよ」
スキン「冒険者は危険な仕事だ。確かに犯罪者でない限り誰でも受け入れてはいるが、軽い気持ならやめておけ」
マツ「あの、従魔が居るので冒険者に登録しなければいけないと言われたのですが」
スキン「んん? ……ほう、それは、ストームキャットの幼体か!」
スキン「そんな従魔が居るなら、冒険者としてやっていけるかもしれんな。いいだろう、入れ!」
ペキ「今、もしかして【鑑定】を使ったでござるか?」
スキン「ああ、それくらい使えねぇと、ギルドマスターは務まらねぇからな」
ペキ「やはり。他人のステータスは見れないでござるが、鑑定の魔法はあるのでござるね」
ペキ「と言うか、なんと、ギルドマスター、略してギルマスでござったか!」
スキン「ああ、おれはスナフスキン。この街の冒険者ギルドのマスターをやっておる」
ペキ「スナフスキン…? どこかで聞いたような名前でござるな。…なんでござったかな?」
マツ「あれですね? 北欧の妖精の、カバみたいな?」
ペキ「ああ、そうだ、ムー…」
マツ「それ以上は言ってはいけないですよ」
スナフスキン「ん? 俺の名を聞いた事があるだと? 冒険者の事も知らない田舎から出てきた者達にまで名が知られているとは、俺も随分有名になってきたようだな、ワハハ」
スナフスキンは笑いながらギルドの扉を開けて入って行ってしまった。
ペキ「いや違うのでござるが…、まぁ、いいでござるか…」
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