第7話 収納とコミュ障とお金

マツ「でも岩なんか入れてしまって、重くならないのですか?」


ペキ「さっきの大剣も軽くはないでござるが、収納してしまえば重さはまったく感じなかったので大丈夫でござろう」

ペキ「別の次元の空間だからでござるかね?」


マツ「そうなんですか、不思議ですね」


ペキ「まぁ今は大した量は収納できないので、岩とか無理でござるが」

ペキ「レベルが上がればきっと…」


マツ「早くレベルが上がるといいですね」

マツ「レベルというのは、どうすれば上がるんですか?」


ペキ「魔物を倒したりすると経験値が稼げるでござる。先程ゴブリンを倒したらレベルが少し上がったので多分あってるかと」

ペキ「あとは、魔法をたくさん使う事でもレベルアップするかも?」


マツ「私のテイム? という魔法もレベルが上がるのですか?」


ペキ「上がると思うでござる。レベルが高くなれば、より強い魔物をテイムできるようになるはず。自分より高いレベルの魔物はテイムできない、というのが大体定番でござる」

ペキ「あと、テイマーという職業に関係がある魔法が色々使えるようになるかも?」


マツ「ほう、例えば?」


ペキ「さぁ?」


マツ「…この魔法を選んだのはペキさんですよね? 知らないのに選んだのですか?」


ペキ「いや、そこまで詳しくは……すまんでござる」

ペキ「でも、動物や魔物を使役できるのだから、動物好きには最高の魔法だと思うでゴザリマスルゾ?」


マツ「まぁ、それはそうですけどね……」


マツ「ところで……」

マツ「ずっと気になってたんですけど……」


ペキ「なんでござる?」


マツ「そのサムライみたいな喋り方?」

マツ「ずっと、続けるんですか?」


ペキ「この喋り方してないと、拙者、コミュ障になるでござる…」


マツ「あーなるほど。照れ隠しみたいなものなんですね……」


ペキ「仕事でもこの喋り方をしてたでござる。最初は上司に叱られたでござるが、続けているうちに業界内でサムライと渾名されるようになって、何も言われなくなったでござるよ」


マツ「それは……ある意味凄いですね」


   ・

   ・

   ・


再び歩き始めた二人と一匹。街道とは言え、魔物が居る未開の世界。また魔物が襲ってくるかも知れないので、早めに街にたどり着きたいところ。


ペキ「本当は、レベルを上げるために、もっと魔物を狩っておきたいところでござるが…」


マツ「さっきの、ゴブリンでしたっけ? あれみたいなのをたくさん倒せばいいんですね?」


ペキ「ゴブリンなら良いでござるが、もっと強い魔物に出会ってしまうと危険でござる。それに、ゴブリンでも数が多かったら危険でござる。なので、一旦、街に行って装備を整え、情報を収集したほうが良いでござろう」


マツ「……街、本当にあるんですか?」


ペキ「ここは明らかに人為的な道に思えるでござる。轍と、それを牽いている何らかの動物の足跡。つまり異世界の定番、馬車が通った痕跡ではないかと。つまり、この道に沿っていけば、いずれ街に着くはず…」


マツ「もう随分歩いてきましたけどね。あとどれくらいで着くんですかねぇ…」

マツ「もしかして、歩いて行けないような距離の可能性もあるのでは?」


ペキ「いや、馬車というのはそれほどの速度は出ないはずでござる。飛ばしてもせいぜい小走り程度。ならば、歩いて到達できる範囲に街か中継点の村があるはず……まぁ、途中で野宿している可能性もあるでござるが、それならそれで、キャンプ地のような場所があるのではないかと思うでござる……」


マツ「そこに行けば誰かが居る可能性がある、と?」


ペキ「…可能性はあるでござる」


マツ「つまり、誰も居ない可能性もある、と?」


ペキ「可能性で言えば、それもありうるでござる」

ペキ「が……まぁ、あの、オサムサンは良い人っぽかったので、いきなり着の身着のままで誰も居ない地域に放り出したりはしないと思うのでござる。お金も持たせてもらったし」


マツ「え、お金?!」


ペキ「マツさんも、ほら、腰に…」


マツ「ああ! 本当だ! 気が付かなかった…」


転移する前、ペキはスーツ、マツはバス会社の制服を着ていたのだが、転移した時点で和洋折衷な感じの服に変わっている。光る剣を使う某SF映画の登場人物のような感じである。おそらくこの世界の服なのだろうと二人は納得していたが、その腰紐に小さな巾着がぶら下がっていた。サイズはお守り袋程度で服の中に隠れるようになっていたのマツは気付かなかったのであった。


マツ「でもやけに小さいですね、お札でも入っている?」


ペキ「マジックバッグになっているでござるよ。これも収納魔法の一種でござるな。見た目よりはるかにたくさん入るのでござる。中を見て見るでござる」


マツが巾着の中を見ると、金貨が見えた。指を突っ込んでそれを取り出して数えてみるマツ。


ペキ「拙者の巾着には金貨が四十枚ほど入っていたでござる。マツさんのはどうでござるか?」


マツ「同じですね」


ペキ「金貨がこの世界でどれくらいの価値か分からんでござるが…」

ペキ「無一文で放り出されたわけではなかったのはありがたい事でござる。そして、他に何もなく金だけ持たせたと言うことは、それでなんとかできる環境が比較的近くにあるという事じゃないかと」


マツ「なるほど…。さすが、イセカイテンイに詳しいペキさんですね。まったく私はペキさん頼りですよ」


ペキ「今のところ、予想はだいたい当たっているので、多分、大丈夫だと思うでござるが……」

ペキ「おお、ほら! 街が見えてきましたぞ!」


見ると、森を抜け、平地が広がった先に城壁が見えたのであった。


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