第5話 臭かったでござる

先頭のゴブリンがバリーさんに輪切りにされ、怯んでいた後ろの二匹であったが、すぐに再び動き始めた。どうやら逃げるという選択肢はないようである。


一匹が前に出てきて先程のゴブリンが持っていた棍棒(枝)を拾い、ペキに向かってきた。


だがペキはそれを前蹴りで突き放す。なにせ身長差が倍くらいあるのだ。棍棒? を持っていてもまだペキの足のほうが長く、スピードも速かった。


手加減なしで思い切り蹴ったペキ。クソ上司の顔を重ねながら放ったその蹴りはみぞおちに入り、ゴブリンはくの字になって悶え苦しみ始めた。(どうやらゴブリンもみぞおちは弱点のようだ。)


ただ、やはり武器も使わずただの蹴り一発では相手を倒すには至らない。


素手で相手を殴って戦闘不能にする事は可能かも知れないが、一撃で殺すとなると空手の達人でも難しい。どうしても殺す事が必要ならば、戦闘不能に陥らせてから別の方法でトドメを刺すのが普通だろう。


ただ、相手が複数居る場合はそれもできない。ゴブリンはもう一匹居るのだ。


ペキ「困ったでござるな……」


しかも、ゴブリンの最後の一匹は、どこで手に入れたのか、大剣を持っていた。


大人と子供ほど体格差があっても、相手が刃物を持っているとなると話は別である。子供であっても、本気で刃物を振り回されれば大変危い。


ましてやここは異世界。救急車で病院に運んで貰えるなど期待できない。かすり傷ひとつで命に関わる可能性もある。


ただ、大剣はゴブリンの身長を越える長さであった。持っているゴブリン自身もかなり重そうに引き摺っている。重い武器を引き摺っていたため、他の二匹よりは出遅れていたのだろう。


そのゴブリンは剣を後ろに引くと、その剣を引き摺りながらペキのほうに向かって走り込んできた。そして、間合いに入ったところで剣を思い切り水平に振ってくる。


だがペキはそれをステップバックで躱す。


戦いにおいて重要なのは間合いだと、キックボクシングの指導者が言っていた。間合いさえとっていれば、飛び道具でも無い限り相手の攻撃が届くことはないのだから。そして、ペキは空手時代から、相手との距離を測るセンス(だけ)は抜群だったのだ。(ビビリなので逃げ足が速かっただけなのであるが。)


ペキは、かなりオーバーに避けた。なぜなら、相手の身体の構造が良く分からなかったからである。


たしか、日本の河童は腕が伸びるなんて話もあったはずだ。あるいは身体がゴムみたいに伸びたりするかも知れない。避けたつもりが急に射程距離が伸びてきて斬られてしまったのでは洒落にならない。


二度、三度、剣を振り回すゴブリン。その度に大きく飛び退いて躱すペキ。


ペキ「……どうやらゴブリンの身体に間合いが伸びるようなギミックはなさそうでござるな」


しかも、剣が重いのか、ゴブリンはいちいち大きくバックスイングしないと振れない様子である。何度も重い剣を振り回して体力を消耗するのだろう、徐々に動きも遅くなってきている。


これなら行けると判断したペキは、四度目の攻撃を空振りさせた後、次の剣撃のためにゴブリンが剣を引くタイミングで一気に距離を詰め、大剣を持つゴブリンの手首を掴んだ。


ペキ「細いでござるな」


ペキは掴んだ手首を引きながら一気に回転、残った手を首に回し、ゴブリンを地面に引き倒した。空手で散々教わった回し受けである。そしてそのまま脇固めの要領で腕を折ってしまう。


脇固めは見様見真似のプロレス技であったが、ペキッと音がしてゴブリンの細腕は思いのほか簡単に折れてしまった。


悲鳴を上げ剣を落とすゴブリン。


すぐにそれを拾ったペキはゴブリンの身体にそれを突き立てた。手入れもされていない錆びの浮いた剣であったが、思いの外簡単にゴブリンを刺し貫く事ができた。先程折った腕もそうだが、どうやらゴブリンの身体は思った以上に脆弱なようだ。


マツ「ペキ君! さっきの! また来る!」


先程ペキの前蹴りで悶絶していたはずのゴブリンが復活しており、再びペキに向かってきていた。


ペキ「およ、頑丈さはないが、回復力は高いでござるか?」


慌てて剣を引き抜こうとしたが、ゴブリンの身体を突き抜け地面に刺さってしまった剣がなかなか抜けない。足でゴブリンの身体を踏み、グリグリと剣を揺することでようやく抜けたが、その時にはもうゴブリンは背後に来て木の枝を振りあげていた。


ペキは剣が抜けた勢いのまま、力任せに背後を薙ぎ払う。ボロボロであったがそれでも鉄の剣。木の枝ごとゴブリンを上下に斬り分け、ペキは勝利したのであった。


こうして、異世界での初めての戦闘は無事終了したのだが……


ペキ「……臭いでござる……」


ペキは、ゴブリンの返り血を浴びてしまっていたのだが、その血がかなり臭かったのだ。排泄物とヘドロの混ざったような臭いがする…。


マツ「確かに……」


バリー「にゃっ!」


思わず後退り、ペキから距離を取るマツとバリーさんであった…。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る