第4話 いきなり接敵

森の中に転移したあお改めペキ。


一緒に転移してきたバス運転手はどうなっているかと隣を見るが…


ペキ「あれ、マツ氏…でござるよな?」


初老の男性だったはずのバスの運転手は、十代後半の男性の姿になっていたのだ。


ペキ「若返った?」


背格好や面影、雰囲気は同じなので、マツ氏で間違いないだろう。


そう言えば自分はどうなっている? とペキは思うが、鏡も何もないので確認しようがない。手や身体を見たり触ってみたりしてみたものの、特に大きな変化があるようにも感じられない。


ペキ「拙者もともと二十代後半であったから、多少若返っていたとしても違いはそれほどなさそうでござるな」


傍らで飼猫との再会を喜んでいる若返ったマツ氏。猫もゴロゴロと喉を鳴らしながらマツ氏に頬ずりしているので、若返った事は特に気にならないようだ。


ペキ「ステータス!」

ペキ「むむ、ステータスは自分自身のしか表示できない仕様でござるか? まぁそれが普通でござるかな…」


仕方ないのでマツ氏に言って、自身のステータスを確認してもらうと、マツ氏のステータス上の名前もマツ・マツとなっていたそうだ。


ペキ「…もしかして、地球での名前は使えない仕様でござるか?」


マツ「バリーさんは……バリーサンになってますね」

マツ「てか、私、マツが名字でマツが名前なんですかね???」


ペキ「……とりあえず、ここはどこでござるかね?」


マツ「スルーされたでゴザル」


ペキ「いやまぁ、色々確認しなければいけない事が山積なのでござるよ。まずはとりあえず…」


ペキ「生き残る事が肝心。スタートが肝心でござる、典型的なパターンなら、ここで魔物に襲われ~」


『ゴギャア!』


その時、背後から聞こえる唸り声。


振り返ると、少し離れた場所に緑色の醜悪な小人が3匹居た。いかにも典型的なゴブリンである。


マツ「おや、人…? が居ますよ、ここがどこなのか聞いてみましょうか?」


ペキ「いやいや、マツさん。それ人じゃなくて多分魔物でござる……ああでも、一応、知性があって話が通じる可能性もあるか? 確認する必要はあるでござるかな?」


マツ「あの~、すみません! ここはどこですか?」


マツ氏が叫んで見る。マツ氏はそのままゴブリンに近付いて行こうとしたのでペキが襟首を掴んで止めた。


ゴブリン「…ごぎゃ?」


いきなり話しかけられてゴブリンは戸惑っているようだ。


現段階ではその魔物の名前がゴブリンなのかも不明である。まぁその典型的なルックスからしてゴブリンだとペキは確信しているが。


ただし、絵でもCGでも作り物でもなく、リアルな生き物としてのゴブリンの生々しさ醜悪さに、ペキもちょっとだけ動揺していた。


マツ氏に話しかけられたゴブリン達はなにやらゴギャゴギャ話し合っている。


ペキ「仲間同士で意思疎通できる程度の知性はあるでござるか? だが、何を言ってるのかはサッパリ分からんでござるな」


そのうち、話し合いが終わったのか、ゴブリン達が振り返り、そして……棍棒を振り上げ、一斉に襲いかかってきた。


ペキ「どうやら話し合いは通用しないようでござるな…」


マツに向かって走ってきた先頭のゴブリンが、持っていた棍棒―――というより、枝分かれして先にまだ葉がついているただの木の枝―――を振りかぶり、振り下ろしてくる。


マツが反応できていないので、ペキが掴んでいる襟首を引っぱり後退させる。


ペキは妄想の中で、異世界転移した時のためにイメージトレーニングを重ねていたが、マツは若返ってはいたが異世界ラノベなど読んだ事がなさそうであったので、いきなりの戦闘に反応できなくとも仕方がないだろう。


ペキに引っ張られて一歩下がったので直撃は避けられた。だが、枝の先についていた葉が思ったより鋭く、それがマツの頬を掠めだようで、頬が少し切れてしまった。


ペキはマツを庇って前に出たが、その前に猫が飛び出してきた。バリーさんである。そしてバリーさんは、飼い主のマツが傷つけられたのを見てブチ切れていた…。


シャーと激しく威嚇しながら猫パンチを繰り出すバリーさん。もちろん遊びの猫パンチではない、爪を出しての本気の攻撃である。


しかもその一撃はなんと、ゴブリンを輪切りにしてしまったのであった。


ペキ「おぉ! どうやらただの猫ちゃんじゃないようでござるな…」


バリーさんが残りのゴブリンも倒してくれる事を期待したペキであったが、バリーさんの様子がおかしい。急に元気がなくなり、よろけて座り込んでしまった。


ペキ「ん…? …もしかして、魔力切れ…? なるほど、あの小さな爪でゴブリンを輪切りにしたのは、魔力を使っての攻撃でござったか」


チロリとペキを見たバリーさんはよろよろと近寄ってきて、ペキの背後に回るとクイとペキを押した。


ペキ「拙者にやれと…?」


バリー「にゃ」


ペキ「ま、まぁ仕方ないでござるな。では……」

ペキ「ってさて、どうするでござるかね? ゴブリンと言えば異世界では最弱の魔物…のはずでござるが」


初めての魔物との戦いである。が、ペキにそれほど焦った様子はない。実はペキは小学生の頃から空手の道場に通わされていたのだ。その実力はかなりのもの……のはず。


実戦経験は皆無であったが。


もちろん、同じ道場の弟子たちと軽く組手をする事はあったが、あくまで道場内の練習での話。ペキはちゃんとした形式の試合にも参加した経験がなかったのである。


もちろんストリートファイトの経験などもない。


その後、高校に入って『そろそろお前も試合に―』と言われてビビり、ペキは道場へは行かなくなってしまった。


ただ、社会人になってから、運動不足の解消のためペキはキックボクシングのジムに通い始めた。球技などの集団でやるスポーツは苦手であったからである。


ジムなら黙々とサンドバッグを殴っているだけで済む。会社のクソ上司を思い浮かべ、ストレス解消に持って来いだった。


もちろん試合には出る予定などもない。(ジム側も、経営のためにダイエットを謳って集客していたので無理は言わない。)


そうして体を動かしていたお陰で、キレは衰えてはいない。それに、一般的な異世界ファンタジーと同じ設定であるなら、ゴブリンは楽勝で勝てる魔物のはず。


もちろん、まだ相手の実力は未知数である。実はゴブリンがとんでもなく強いという可能性もあるが……


最初に襲いかかった一匹が瞬殺された事で、残りのゴブリンは躊躇してすぐには向かってこなかったので、少し観察する事ができた。


ペキ「敵の体長は自分の半分程度しかないでござる。見ている限り、動きも速くはない。戦いは体の大きさ重さが重要なはずでござる。なんとか対処できそうでござるな」



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