第14話 吉備の中山散策
これでもうひとつの桃太郎伝説を辿る旅は終わりを告げた。しかし、吉備の中山には他にも古墳があるらしいので、当初のもうひとつの目的、健康のための歩数稼ぎのためもう少し先へ足を進めてみよう。
陵墓の奥に続く細い道を辿れば、山岳信仰の寺、八徳寺が見えてくる。高い木々に囲まれた広場に木漏れ日を受けてぽつねんと小さな社が建っている。説明が無ければただの掘っ立て小屋と思えてしまうような素朴な社だ。
あまりに神秘的なそのロケーションは、緑深い山奥の谷間に隠された仙人の隠れ家のようで、誰にも知られていない秘密の場所を発見した気分だ。
一説によれば、祭神は「温羅命」とされている。吉備の中山は吉備津彦命の陣中だが、ここでも温羅が祀られていることに驚きを隠せない。
八徳寺の脇を登っていくと、「穴観音」という面白い名前の史跡がある。四つの巨石に赤い布が巻かれており、その異様な光景に否応なく心拍数が上がった。石の側面には穴が穿たれているそうだが布をめくってみるのは恐れ多いというか、むしろ怖い気がして確認はしていない。
観音様と名付けられているが、阿弥陀仏、大日如来とする説もある。また、正面が茶臼山古墳の頂で、被葬者を拝む盤座となっているという。なるほど、石の背後が一際盛り上がっている。石仏の彫られた岩の穴に耳を当てると、観音様の声や、潮騒の音が聞こえるという言い伝えが残されているそうだ。
人の往来もまばらな日の光の届かぬ山中で赤い布がかけられた石というのは正直かなり不気味で、何も知らなければホラースポットでしかない。岩の穴に耳を傾ける気には到底なれず、そっと引き返した。
さらに遊歩道を進むと、茶臼山古墳の山頂のフォルムがよく分かる。古墳と言われても全くピンと来なかったが、段差のある形状を見て納得できた。
御陵までしか来たことが無く、その先にも見どころがあることを恥ずかしながらこの度初めて知って驚いた。古墳の頂を見たのもこれが初めてだった。
もう一息進んで、山中にある石舟古墳まで足を伸ばしてみることにした。以前、御陵に来たときに道が分からず断念した場所だ。
吉備の中山はただの小さな山と思っていたが、重要な史跡があり、山自体が信仰の対象であることを知り、その存在感と奥深さが一気に増した。
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