第13話 御陵 桃太郎の墓
古代の展示品を見学して高揚した気持ちを保ちつつ、いざ茶臼山古墳へ登ってみることにする。木々に囲まれた細い山道を五分ほど登っていくと、広場が見えてくる。
春先には山桜が白い花を咲かせ、春風に花びらが舞う幻想的な風景に出会うことができる。広場の奥に石垣が築かれ石段の上には鳥居、その向こうには吉備津彦命の墓があるとされている。地元の呼び名「御陵」の看板も見つけることができた。
吉備の中山に桃太郎の墓があると聞いていたが、なるほど吉備津彦命を祀る古墳だったというわけだ。御陵は桃太郎の墓らしいという漠然とした知識しか無かった。
実際の被葬者は明らかではないそうだが、宮内庁では第七代孝霊天皇の皇子、大吉備津彦命の墓に定められている。一八七四年に治定され、現在に至る。墓は宮内庁の管轄だというから身近にこんな貴重な史跡があることに改めて驚くばかりだ。
吉備津彦命は二八一才で亡くなり、ここに葬られたとされる。宮内庁認定というからある程度リアリティのある設定かと思いきや、突然ありえない飛躍を見せるところが神話的で面白い。それが現実と、語り継がれた伝説の狭間なのだろう。
単に生没年が正しくないために帳尻が合わなかったような気もする。桃太郎のモデルは悪辣非道、屈強な鬼を退治した英雄で、並の人間の倍以上も長生きをしたというおとぎ話の主人公に劣らぬ経歴を持っていた。長寿のご利益があるに違いない。
宮内庁管轄のため、石段から先へは一般人は入ることができない。吉備の中山でハイキングを楽しむ人たちは柵の前で一礼していく。
鳥居を見上げていると、敷地内を清掃しているおじさんに話しかけられた。ここは他の場所より温度が低く感じられ、見上げる空の色も違うと教えてくれた。
そう言われると、やや肌寒い気がしてくるし、見上げた空は特別神秘的な深い青をしているように見えた。ここは確かに空気が違う神聖な場所だと実感し、真摯な気持ちで手を合わせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます