第12話 古代吉備文化財センター

 余談だが、「三国志」の蜀の国に関羽という義に厚く、武勇に優れた武将がいる。関羽は戦に敗れて斬首され、胴体は当陽に、首は遠く離れた魏の曹操がいる洛陽に送られ葬られた。「三国志演義」では、関羽は自分を殺した武将たちを祟る記述がある一方、死後神格化して民に敬われる存在となった。


 現在でも中国だけでなく世界中に関羽を祀る関帝廟がある。塩の商人だった関羽は商売の神様、財神として大変人気があり、人々に愛されている。

 温羅もまた、首と胴を切り離され一度は恐ろしい祟り神になったものの、現在は人々に恩恵を与える神として控えめながら祀られているところが関羽に通じるものがある。


 いよいよ桃太郎伝説の最後の地、吉備の中山にある桃太郎の墓を訪ねてみよう。吉備津神社の裏手の遊歩道を七五〇メートルほど上れば、茶臼山古墳の案内看板を見つけることができる。ここが地元の人間は御陵と呼ぶ、桃太郎の墓とされる場所だ。


 ちなみに、茶臼山古墳は日本各地にあり、名称の由来は形状から名付けられた古墳に対する民間の通称だ。前方後円墳や円墳でこの名称を持つ場所が多い。


 古墳への登山道へ上がる前に、見学しておきたいのは岡山県古代吉備文化財センターだ。

 岡山県では吉備と呼ばれた古代王朝が強大な勢力を誇っていた。そのため全国でも屈指の古代遺跡が残されており、多くの出土品が発掘されている。収蔵庫には数万点にのぼる収蔵品が保管されており、その中から選りすぐりの品が展示されている。


 ちなみに、総社市にある造山古墳は規模にして全国第四位、作山古墳は第十位にランクインしている。大阪、奈良がほとんどの順位を占めるランキングの十位以内に岡山県が二基も切り込んでいるのは誇らしいことだ。吉備国の権力はそれほど大きかったことが示されている。


 訪問時は企画展「真金吹く吉備」が開催されていた。古今和歌集に「真金吹く 吉備の中山 帯にせる 細谷川のおとのさやけさ」謳われており、「真金吹く」は製鉄のときに飛び散る火花を意味する「吉備」の枕言葉という。

 県内の遺跡から出土した鉄製品が展示されており、温羅伝説との深い縁を感じた。銅鐸や銅鏡など、学校の教科書で見た遺物が身近な場所から出土していることに驚く。


 子供の頃は古代の出土品なんてどうせ出来の悪い壷や錆びた鉄の塊だろうとさして興味を持つことはなかった。しかし、相応に年を重ねて、土地の歴史について興味が持てるようになると、二〇〇〇年近く過去の遺物がこうして目の前に存在する奇跡にしみじみ感動を覚える。 

 気の遠くなるほど昔の人間が壷に描いた文様や、鏡に彫り込んだ文字を実際に見ることができるというのは感慨深く、古代人の生活に思いを馳せる悠久のロマンがある。入場は無料、県内の史跡マップなどのローカル情報もあり、散策の手がかりになる。

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