第11話 吉備津彦命の屋敷跡 吉備津彦神社

 吉備の中山の裾野にはもうひとつ吉備津彦命を祀る神社、吉備津彦神社がある。鉄道なら吉備津駅から一駅のJR備前一宮駅が最寄り駅だ。吉備津神社から一.六キロの距離で、山裾を歩いて進めんでもたどり着く。


 その場合は、途中にある牛を供養する鼻ぐり塚に立ち寄ってもいい。古墳に牛の鼻輪をうずたかく積み上げた絵面のインパクトはなかなかのものだ。無数の鼻輪の山の前では、牛への感謝とささやかな畏敬の念が湧き上がることだろう。


 吉備津彦神社は、吉備津彦命の屋敷跡に社殿が建てられたのがその始まりとされている。参道の鳥居は夏至の日に真正面から太陽が登ることから、朝日の宮とも称される。

 なぜ吉備津彦命に関わる神社が二社あるか不思議に思っていたが、吉備津神社は陣を置いた場所、吉備津彦神社は屋敷があった場所ということですとんと腑に落ちた。


 鳥居の脇には立派な筋骨隆々の備前焼の狛犬が鎮座している。そう言えば、鯉喰神社の狛犬も備前焼だった。狛犬といえば石造りが基本だと思っていたが、備前焼のように陶製の他に鉄製、珍しいものでは木製のものもあるそうだ。


 参道脇には広い池があり、春先には亀が甲羅干しをする姿が見られる。よく見ればすべて外来種のアカミミガメで、神社の池にも外来種が住んでいるのかと世知辛い気持ちになってしまった。


 池のほとりには桃太郎茶房という軽食屋がある。きびだんごやおもちに甘酒など、神社ならではの和グルメが楽しめる。

 随神門をくぐれば両脇に堂々と建つ六段造りの巨大な灯籠に目を引かれる。寄進者一六七〇余名、一八五九年に天下泰平を祈願して造られたものだ。中央の階段を上ると立派な拝殿が見えてくる。その背後に祭文殿、渡殿、本殿が一直線に並ぶ。


 興味深いのは敷地内に温羅を祀る小さな社があることだ。温羅を吉備の国を豊かにした英雄として祀っているという。四月三日には例祭も開かれている。

 おとぎ話の桃太郎は勧善懲悪の物語だが、もうひとつの桃太郎伝説では鬼は単なる悪者ではなく、むしろ英雄視されている。

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