第10話 吉備津神社の建築美

 吉備津神社には一五七九年に再建された南随神門に続く全長三六〇メートルに及ぶ廻廊がある。表参道からすると裏手に当たるが、ぜひスタート地点から廻廊を歩いてみたい。


 鳥居のところで出迎えてくれる狛犬は頭に角が生えた珍しいタイプだ。顔つきも犬というより獅子に似て凜々しい姿で鎮座している。廻廊の始まりは牡丹園から。時期には牡丹が色鮮やかな大輪の花を咲かせる。その先に見えるのは弓道場だ。吉備津彦命は弓の名手、ここで弓を持てばきっと霊験あらたかだろう。


 なだらかに上方にカーブする一直線の長い廻廊はまさに圧巻。廻廊脇に立つ梅の花と苔むした灯籠が趣を増す。梅雨時期になると吉備津神社は紫陽花が咲き乱れるあじさい寺となる。

 廻廊中程にある岩山宮に通じる鳥居の向こう、急な石段の両脇一面に咲く美しいグラデーションの紫陽花は息を飲むほど見事で美しい。雨が振った翌日は雨露に濡れた艶やかな花がしっとりと瑞々しく、うっとうしい梅雨にひとときの爽やかさを感じられる風景だ。


 ちなみに岩山宮には吉備津彦命が温羅と対戦する際、老人が現われて布陣について助言を与え、岩になったという伝説がある。老人は神の遣いだったのだろうか、温羅にはなんとも分が悪い話だ。


 南随神門に到着したら、柱から顔を出して振り返ると廻廊の側面を見通すことができる。滑らかな曲線を描くダイナミックかつ美しい景観に目を見張ることだろう。


 国宝に指定された本殿、拝殿は京都の八坂神社に次ぐ大きさで出雲大社の二倍以上の広さがある。出雲大社より広いと聞くと、なんとも結構なことだと感心してしまう。独特の屋根のつくりは「比翼入母屋造」といわれ、全国唯一の様式であるため、「吉備津造り」とも呼ばれる。真横から見上げると、千鳥破風が二つ並ぶ壮麗な姿に見惚れてしまう。


 一段上がった一童社からは反り返った茅葺屋根が斜めに迫るアングルで本殿を臨むことができ、観光雑誌のような見栄えの良い写真スポットとしてお勧めしたい。


 吉備津神社へはJR吉備津駅から徒歩十分。吉備路サイクリングロードにも含まれており、天候が良ければ自転車を漕いでのどかな田園風景を楽しみながら訪問するのも気持ちが良いだろう。

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