第8話 鬼の胴塚 艮御崎神社

 しかして、首と胴が切り離されたなら、胴体が埋葬された場所もある。温羅の胴体は岡山市北区辛川市場にある艮御崎(うしとらおんざき)神社に祀られている。


 ここは吉備津神社の北東(鬼門)に当たる。ちなみに「艮」は方角にして北東を意味する。鬼門は陰陽道において、鬼が出入りする不吉な方角とされている。なんとも曰くありげな位置関係となっている。


 艮御崎神社は中山中学校の北側、小丸山の山頂に建てられている。吉備津彦神社から徒歩一〇分ほどの場所なので、土手沿いに歩いて向かった。小丸山は前方後円墳と言い伝えがあるが、それを裏付ける史料は発見できなかったようだ。

 しかし、中世の城砦という説や幕末に池田茂政が土塁を築いた経緯があり、岡山の歴史を物語る場所には違いない。


 小丸山はその名の通り、小さな丘程度の規模だ。草伸び放題の石段を登ると、これまた草木が生い茂る広場に出る。これから夏になるともっとワイルドな草むらになることが予想される。


 その先さらに一段上がった場所に屋根が見える。二本の石柱の間を通り、境内に進むとこぢんまりした随神門が見えてきた。その先の拝殿に掲げられた扁額でようやくここが艮御崎神社と認識できた。


 周辺には神社の由来を示す案内もない。入り口にあった簡易的な説明看板でしか情報が得られなかった。首と胴体、方角は同じでもやや離れた場所に埋められたということは、再びそれらが繋がって復活することを怖れたのだろうか。


 どちらの神社も住宅地の中にささやかな社が残るのみ。大勢の参拝客で賑わう様子はとても想像できない。それが鬼の遺体を埋葬した場所というパワースポットのミステリアスな雰囲気を否応なしに感じさせた。

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