第7話 鬼の首を祀る白山神社

 吉備津彦命に捕えられた温羅は首を落とされ、その首は晒されることになった。温羅の首塚が岡山市北区首部の白山(はくさん)神社にある。市街地から岡山インターへ向かう国道五十三号線を逸れた住宅地の合間に突然鳥居が現われる。鯉喰神社と同じく、地元密着型の神社だ。


 立派な鳥居をくぐり、ゆるやかな短い参道を上ると、可愛い狛犬が出迎えてくれる。行儀良く鎮座している姿が一般的だが、岡山では珍しいお尻を上げた格好の「構え獅子」と呼ばれるスタイルだ。その顔もどこか愛嬌がある。神社を巡るといろんな姿の狛犬に会えるのも楽しい。


 随神門をくぐると右手に高さ二メートルほどの盛り土がある。これが温羅の首塚だ。鬼の首が埋葬されていたと思うと、ただの盛り土にも近寄りがたい強力なオーラを感じる。立て看板には「鬼神首塚」と並んで「米神」と記されていた。


 なぜに米神か、神社の縁起に説明がある。「吉備津彦命から鬼と怖れられた温羅は、実は心優しい青年で、朝鮮半島からたたら製鉄技術を持ち込み、農民に農耕の道具を広め、農業の発展に力の限りを尽くした。やがて、吉備の国は豊かな米どころとなり、温羅は農民から大変感謝され、米の神として祀られた」(抜粋)


 勧善懲悪の桃太郎の物語においては、鬼は民を苦しめた悪者だ。しかし中央の支配者が送り込んだ武将が地方の豪族を制圧したという政治的な史実も垣間見える。この神社では温羅を祀り、心優しい青年と表現していることも興味深い。温羅の首を祀る簡素な社に敬虔な気持ちで手を合わせた。


 鬼ノ城方面から白山神社に向かうとき、万成にある「えびめしや」でランチをお勧めしたい。えびめしとはご飯に海老やタマネギ、にんじんなどの細かく切った野菜を混ぜてデミグラスソースで炒めた料理。洋風の見た目に和風の錦糸卵がのっているのがミソ。岡山のソウルフードと言われている。


 初めて見ると、その黒さにびっくりするかもしれない。しかし、ソースの香ばしさがなんともいえず美味しい。これは癖になる味だ。「えびめしや」では海老フライやハンバーグなどの洋食が楽しめる。休日は親子連れで賑わう人気店だ。

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