第4話 鬼の投石を防いだ楯築遺跡

 倉敷市矢部にある楯築遺跡は弥生時代後期の墳墓で、勾玉やガラス玉、土器などの副葬品が出土している。

 旧二号線に立つ案内看板から北上し、新幹線の高架下をくぐる。閑静な住宅街の坂道を登っていくと、木が茂る丘が見えてきた。手狭だが駐車場もあり、案内看板も立っている。こんな場所に史跡があったのか、と目からウロコの思いだ。


 楯築遺跡は王墓山古墳の上にある。舗装された遊歩道を上っていくと、散歩中の親子連れとすれ違い、挨拶をかわす。おそらくこの近所に住んでいるのだろう。この近隣の子供たちにとって、普段の遊び場は古墳であり、生活の中に古墳があるのだ。なんだか贅沢だなと羨ましく思ってしまった。


 坂道の頂上に白い貯水タンクが見えてきた。なんとまあ古墳の上に貯水タンクを造るのか、驚きを隠せない。いやしかし、古代の名も知れぬ豪族の墓よりも今生きている住民の生活の方が大事だ。もし、発掘された古墳をすべて保存していたら、生きている人間の住む場所が狭くなってしまうだろう。


 貯水タンクの背面に回り込むと、五つの巨石が並んでいた。高さ二メートル程はあるだろうか、なるほど楯のように平たい。間違いない、ここが楯築遺跡だ。向きはバラバラだが巨石が円周状に配置されている。


 その様相はミステリアスなストーンサークルだ。中央の岩には小さな祠が祀られており、そのオカルティックな光景に思わず鳥肌が立ってしまった。古墳の上というロケーションも相まって、ここには神聖な空気が満ちていると肌で感じた。内心、人気の無い夕暮れ時に来たことを心なしか後悔した。


 これらのストーンサークルは明らかに何らかの意図で、人為的に建てられたと見える。古墳の上にあることから、祭祀の場として使われていたとも考えられる。ここで祈りを捧げると、何かが降臨しそうな荘厳な雰囲気すら漂っている。


 伝説では、吉備津彦命が温羅の投石をこの巨石群で防いだとされる。しかし、鬼ノ城から楯築遺跡まで直線距離で約九キロ。一体どれほどの怪力で岩を投げたのか、投石機があったとしてもさすがにここまで届きはしないだろう。このような大味でダイナミックなエピソードも古代神話ならでは、だろう。


 ちなみに楯築遺跡は温羅側の陣だったという説もある。鬼神の怪力で岩を板状に切り出し、それを豪快に並べて楯にした、という方が物語としては面白みがあるかもしれない。閑静な住宅地に突如出現する和製ストーンサークルは、伝説も相まって想像以上に見応えがあった。

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