第11話「ホエールウォッチング」
♫言うたちいかんちゃ おらんくの池にゃ潮ふく魚が泳ぎよる ヨサコイ ヨサコイ♫
高知県民のよさこい節より。
「クジラ!?」
「そう、本物のクジラ」
「水族館とかではなくて、海にいるクジラを見れるんですか?」
「水族館にクジラは入らないよ」
民宿で足心官道をしていると、五十歳くらいの男性が、自分はホエールウォッチングの船の船長をしていると言って、タケゾウにもクジラを見たければ船に乗せてやると言ってきた。
もちろん、料金はかかるが、割り引きが使えるという。
海でクジラが見れるとは思っていなかったので、話しを聞いて一気に心が高揚した。
五十歳くらいの船長は、最近、目が悪くなってきたので、首から上の病に霊験あらたかだという、弘法大師が
タケゾウは足の第2指と第3指に有る目のツボはよく効くと言うと、興味深そうにしていた。
車で船まで連れて行ってくれるというので、翌朝、船に乗ることにした。
❃
船は小型の漁船である。
まずは注意事項。
「船は往復約5時間です。船内にトイレはあります。日差しが強いので帽子は必ず持っていってください。薄手の長袖やサングラスもあるといいです。日焼け止めとタオルもあるといいです。飲料水は各自で十分に持ってください。乗り物酔いしやすい人は事前に酔い止め薬を服用するといいです」
乗客は10名、カップルや親子連れ、一人旅の人達である。
「沖に1時間半ほど船を走らせると約70〜80%の確率でニタリクジラを見ることができます。ニタリクジラは体長12〜15mで船が近寄ってもあまり警戒せずゆったり泳ぎ、その優雅さから『海の貴婦人』と呼ばれています。また、イルカの群れも多く船の周りに遊びにきて数頭でジャンプを繰り返してくれます」
15分ぐらいの注意事項とクジラについてのレクチャーを聞いて、出港である。
料金は大人1名7,000円。
3才未満 及び妊娠中の方の乗船は不可である。
❃
タケゾウは船に乗って海に出るのは初めてで、まして、クジラが見れると大いに興奮していた。
土佐湾を進む船、気分は坂本龍馬だった。
1時間半ほどしてクジラのいる沖にきたが、クジラは見れない。
絶対にクジラが見れるわけではないので、しかたないが、やっぱりがっかりである。
「クジラ、見えないな〜 たまにいないんだよな〜」
船を止めて船長がタケゾウの所にやってきた。
「せっかくだからクジラ見たいだろ。とっておきを見せてやる! これやると札所にお賽銭を入れなきゃならないんだか……クジラを見て人間の小ささを感じろよ」
そう言うと船長は真言を唱えだした。
南無大師遍照金剛
南無大師遍照金剛
南無大師遍照金剛
『オン マユラキランテイ ソワカ』
「それは、孔雀明王法!?」
「お兄ちゃん、知ってるのか!? 密教の秘法だぞ! オレの親父も漁師で、魚がどうしても取れないときに使っていたらしい。いま、クジラを呼んだから来ると思うぞ」
そう言うと船長は戻っていった。
パチンコ屋で台を当ててくれた人が唱えていたのと同じ真言だ。
あの人は金剛杖を持っていたけど、船長は手で印をむすんでいた。
間もなくしてクジラが現れた。
乗客は急いで船首に集まった。
本当にクジラが来たよ。
まさか、孔雀明王法で呼んだのか?
タケゾウは半信半疑で真言を考えていた。
ニタリクジラは船に沿って泳ぎ、息継ぎの『ブロウ』と言う潮吹きをした。
ニタリクジラを対象にしたホエールウォッチングを行っているのは日本全国でも高知県だけである。
なぜか土佐湾には数十頭のニタリクジラが住み着いているのだ。
❃
十分にクジラを見て、船は港を目指していた。
「イルカだ! イルカ、イルカ!」
小学生低学年の女の子がイルカの群れを見つけてはしゃいでいる。
イルカは船の周りでジャンプしながら泳いでいる。
女の子は夢中になって船から身を乗り出し、海に落ちてしまった。
「ぎぃやーああああああ!!」
母親の悲鳴に乗客を担当している係員が気づき、すぐに船長に手を振って船を止めるよう合図を送った。
乗客は全員、救命胴衣の着用が義務付けられているので、女の子も救命胴衣を着ていた。
船長は双眼鏡を使い、海に浮く救命胴衣を目指して船を走らせた。
救命胴衣はあった。
しかし、女の子の姿は無かった。
体が小さいので海に落ちた衝撃で脱げてしまったのだろう。
タケゾウは海面を探すが女の子の姿は見つからない。
しかし、船長は印を結んで祈っている。
(なんで、こんな時に祈ってるんだ!)
タケゾウは船長に怒りを感じ、自分が海に飛び込んで探そうとした。
しかし、広い海で闇雲に海に潜っても見つかるものでないと船長は知っていた。
南無大師遍照金剛
南無大師遍照金剛
南無大師遍照金剛
『オン マユラキランテイ ソワカ』
(イルカ達よ、女の子を探し、海の上にあげてはくれないか)
イルカの群れに頼む船長。
イルカ達は、救命胴衣の周りを泳ぎ、一頭が女の子を持ち上げた。
「よっしゃーー!!」
船長はためらわず海に飛び込み女の子を助けた。
まさか、本当に真言で助けたのか!?
タケゾウは、この時、真言の力を確信した。
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