第5話「阿波おどり」
第17番札所
山門に立派な仁王像があり、石段のすみで
タケゾウは背負っていたバックを置いて、中から『足ツボ、足心官道。興味のある方はどうぞ。もちろん無料!』と書かれた張り紙をバックに貼った。
最初は、遠巻きに見ていたが、実際にやってもらう人が出ると列ができた。
足の疲れた人は多いようだ。
足をもんでもらった人達は、タケゾウに向かい『
❃
ちょっと何人かの足を揉むつもりだったのが夕方になってしまった。
昼過ぎからだから、けっこう揉んだな……
足ツボのブームは過ぎて、興味の有る人も少なくて二〜三人くらいかと思ってたけど、けっこうやってみたい人はいるんだな?
一人、千円ぐらいでやったら大儲けか?
いやいや、お遍路で金儲けなんてしたらバチが当たる……
「ちょっと、足もみのお兄さん!」
徳島駅前で、五十歳くらいの女性がタケゾウの肩を叩き声をかけてきた。
「足をもんでもらったら、凄く軽くなったのよ。ありがとね。あたしたち、これから
「阿波おどりを食べる?」
タケゾウは不思議そうにしている?
「徳島には阿波尾鶏っていうブランドの地鶏がいるのよ!」
「あ〜っ、地鶏ですか……」
強引に誘われタケゾウは中年の女性の行く居酒屋に入った。娘らしい二十代くらいの女性も一緒である。
「それじゃ〜乾杯!」
徳島名物の『すだち酎』で乾杯である。
テーブルに熱々の鉄皿に乗った、食べごたえのある骨付き肉が運ばれてきた。
「これが、阿波尾鶏ですか、美味しそうですね。俺のおふくろは
「えっ、やっぱり! 私は婦人会に入っていて毎月、阿波おどりを練習してるの、お盆には着物を着て皆んなの前で踊るのよ」
「阿波おどりは腰を下げて腕を上げて踊るので足腰にいいし、肩こりや頭痛にも良いっておふくろは言ってました」
阿波尾鶏をかぶりつきながらタケゾウがしゃべる。
「そうでしょ。阿波おどりには男踊りと女踊りって違いがあるんだけど、女踊りは手を真っすぐ上に上げて踊るから調子がいいもん。今日も娘の頭痛が治るよう、お大師様にお祈りしてきたんだけど、娘は、阿波おどりをやらないのよ」
「娘さん、頭痛ですか?」
「そう、この娘は、一年間以上頭痛で、病院にも行ってるけど治らないらしいのよ」
「頭痛の原因は多いらしいですよ。周りに自分を無視する人や、つまらない事で文句を言う人がいると頭が痛くなるようです」
「職場の人間関係は悪くないんですよ……仕事も嫌いではないし」娘が話す。
「冷房が足や頭に当るとか、仕事量が多いとか? 俺は、パソコンを使うだけで頭が痛くなるけど……」
「う〜ん、そうでもないな〜パソコンもなんともない」
「俺のやってる足ツボは、締め付けられるような頭痛によく効きますよ」
「えっ、本当ですか!? あたし、頭が締め付けられるんです。まるで、孫悟空の輪っかみたいに」
「それなら、見てみましょう」
タケゾウが娘の足を見てみる。
般若の目で足と頭の流れをみる。
(これは、いつものパターンだな。一発だ!)
隣の席では、週末で会社の宴会がやっていた。若い女の子がタケゾウが足を見ているのに気づき見ている。
タケゾウも宴会の人が、何人か自分を見ているのに気づいた。
タケゾウは立ち上がり右腕を高く上げ人差し指を立てた。
「一分じゃない、一秒だ!」
タケゾウに宴会をしてる人達の注目が集まった。
力石だ、力石だ……
タケゾウは、前に読んだボクシングの漫画のマネをしている。
中年の男性は興味津々である。
タケゾウを見る宴会の人達。
「一秒で頭痛を取って見せる!」
調子にのったタケゾウは宣言した。
面白がって、宴会の人達が集まってきた。
足を投げ出している娘も、まさか一秒で頭痛が治るとは思ってない。
しかし、タケゾウは自信があった。
何度か同じパターンを経験して、自身でも締め付けられる頭痛は、こうすれば良いとわかっていた。
「では、いきます!」
タケゾウが右足の親指の脇をぐっとひねった。約一秒。
娘は、一瞬痛みを感じたか、すぐに収まった。
周りの人達が本当に一秒で頭痛が取れたのかと、娘を見ている。
「……頭の締め付けが無くなっているような……」
娘は、一瞬で頭の締め付けが無くなったことに不思議そうにしている。
本当に効果があるのか、宴会の女性もやってもらいたいようで「私も頭痛がひどいんですけど」とたずねる。
酔っ払ったタケゾウは、「いいですよ」と宴会に来ている女性の足をもむと、すぐに後ろに若い女性が二人並んだ。
頭痛に困る人がこんなに多いのかと、タケゾウの方が驚いた。
若い女性達なので、少し丁寧に足をもんだ。
足の親指だけなので一分程度だが、施術を受ける方は痛いようで身をよじっている。
その姿が面白いらしく宴会の人達は盛り上がっている。
女性が終わったと思ったら中年男性も後にいた。
宴会の人達から係長と言う掛け声が聞こえる。どうやら人気のある係長なんだろうと思い、面白いので強くやってやろうと思った。
「痛いですよ」とタケゾウが男性に言うと、力を入れて足の親指をひねった。
「ひいい〜〜っ!!」と言う声を出しイスから転げそうになって、タケゾウは急いで体を支えた。
宴会の人達は大爆笑だった。
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