第5話スポンサード契約
「禍々雅って…お前だったのかよ…」
会議室に入室してすぐ目の前の席に座っていた彼女を目にして苦笑とともに嘆息してしまう。
「そうだよ。驚いた?」
目の前の女性、
「大学卒業したら実家の家業を継ぐんじゃなかったのか?」
彼女の実家は地方で代々続く高級旅館だった。
「うーん…そうだったんだけど…。そっちはいつになっても出来るからね。若い今しかできないことを一生懸命に頑張ってみたかったんだよ」
「なるほどな。選択肢が多いのは羨ましいよ」
「私だって今のポジションになるのに結構苦労したんだよ?卒業した年は事務所に所属できなくて…個人勢でどうにか名前を売りまくって…やっと事務所に入れて今のポジションまで全力疾走だったんだから」
「そうか。企業とコラボ出来るまで名が売れたんだもんな。凄いことだと思うよ」
「ありがとう。今回は私発信だったけどね…」
「それにしても…僕がここで働いているってよく知ってたな」
「同級生に聞いて回ったよ。結構骨が折れたね」
「そうか。それは面倒かけたね…申し訳ない」
軽く頭を下げると早速資料をモニターに表示させると打ち合わせは始まる。
「知っていると思うけど。うちは飲料水がメインの会社なわけだけど…。単発的なコラボって話でいいのかな?」
「いいや。長期的な契約が欲しいかな」
「長期的な契約って言うと…スポンサー的な扱いを望んでるってこと?」
「そういうこと」
「それは厳しいんじゃないかな…。配信中とかうちの飲料水以外を口にすると角が立つし…毎度の配信でうちの商品を宣伝してもらうってことになるだろうし…考えただけで色々と浮かんでくるけど…大変だと思うよ?」
「良いの。きっと長期契約のほうが賢人くんの成績向上に繋がると思うし…」
「そんな…僕のためだけにそんなことしなくていいよ」
「私がしたいの…」
必死そうで何処か余裕の笑みを浮かべる彼女に圧倒された僕はそれに頷いて応えることになる。
「じゃあ長期契約にするとして…。毎回の配信でうちの商品の名前を口にしてもらったり紹介をしてもらったり…ネガティブ発言は絶対に駄目。ポジティな発言で商品を紹介してもらう。思わず買ってしまいたくなる購買意欲をくすぐる様な言葉で紹介して欲しい…」
「分かった」
「それで契約金の相談だけど…」
そこから僕は上司に提示されていた契約金ギリギリのラインで禍々雅とスポンサード契約を結ぶことに成功する。
「うちの商品のラベルに禍々雅のイラストを乗せたりコラボ商品を作ったり。どちらにも利益があるように今回のコラボを成功させていきましょう」
「うん。お願いします」
そうして僕と禍々雅の打ち合わせは終了となる。
「そうだ。連絡先教えてよ。平井に聞いたんだけど…教えてくれないんだもん」
平井とは晴子のことである。
「その配信観てたよ。コメ欄は盛り上がっていたみたいだけど…」
世間話を繰り返しながら僕は福留印にスマホを渡した。
彼女は連絡先を入力するとスマホを返してくる。
「平井は必死そうだったけど…私は出来るだけ余裕そうに頑張るわぁ〜」
「なんだそれ…」
「今度、食事行こうね?進捗報告ってことで」
「わかったよ。また今度な」
「うん。じゃあ今日はありがとうね」
福留印は僕に手を振るとそのまま会議室を出ていく。
上司に本日の結果を報告すると業務に戻っていくのであった。
「最近、フロンティア内部がピンク色に染まっているんだけど…由々しき事態ですな。自分たちの恵まれた立場を分かっていないメンバーが増えてきた感じがする。
フロンティアタイムの中心メンバーである
この不穏な発言によってフロンティアタイム内がざわつくのであった。
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