第3話正体判明

本日はゲーム配信の日であった。

「この間さぁ〜…」

モンスターを討伐するようなゲームを無心でやっている鉄星は唐突に話題を変えるように口を開いた。

「賢人くんの実家に顔を出してみたんだよねぇ〜…」

その様な続きの言葉に僕は口をあんぐりと開けて呆けてしまう。

「それで!?どうなったの!?」

「賢人くんと再会した!?」

「彼氏公表!?」

最近の彼女のコメント欄は、鉄星の恋を応援するような流れに切り替わっていた。

「いや…それがさぁ〜…留守だったみたいで誰も出てこなかったんだよねぇ〜…」

それもそのはずである。

父は未だに現役で働いているし、母親も暇な時間を持て余すのが億劫だとかで僕が成人してからはパートを始めたのだ。

もちろん僕は実家暮らしではないし、兄弟姉妹が居るわけでもない。

実家に誰もいなくても不思議ではなかった。

「だからさぁ〜…もしもこの配信を賢人くんが見ていたらコメント欄でもSNSでも良いから反応してほしいんだよねぇ〜…」

モンスターをそろそろ討伐しそうだと理解した鉄星はゲームの方に集中していて会話は殆ど思考せずに口を開いているようだった。

「もしくは…実家のポストに手紙入れておいたから。読んでほしいなぁ〜」

そしてついにモンスターが倒れるとゲームクリアの画面が表示される。

「よし!やっと倒せた〜!ってことで今回はこの辺でお別れです。次回はメンバーとコラボ配信だと思います。その内、告知も出ると思うので!よろしくねぇ〜。じゃあお疲れ様でした〜」

鉄星はいつものようにあっさりと配信を終えて僕らの気持ちは少しだけ置いてけぼりになってしまう。

そんな時にいつでも開かれているフリーチャットの枠にファンはコメントを残していった。

そんなことよりも僕はスマホを手にすると母親に電話をかける。

「もしもし?最近連絡なかったわね。元気にしてるの?」

数コールで母親は電話に出ると優しい口調で僕の近況を探っていた。

「申し訳ない。忙しくて連絡するの後回しにしてた。それよりも…」

「あぁ〜…そう言えば賢人宛に手紙が届いているよ。そっちに送ろうか?」

僕が本題を出す前に何かを察した母親は先んじてその話題を口にする。

「大丈夫。これから少しだけ顔を出すよ」

「あら。そうなの?泊まっていくの?」

「いいや。明日も仕事だから本当に一時間程度顔を出すよ」

「わかったわ。車で来るのかな?気を付けてね」

「了解」

そこから身支度を整えると車に乗り込んで実家へと向かうのであった。


「急に来るから何も用意がないんだけど…」

母親は少しだけ困ったような表情を浮かべるのだが、それを否定するように首を振って応える。

「僕が急に行くって言ったから悪いんだよ。気にしないで」

家に上がると母親はコーヒーを用意してくれていた。

「そうそう。手紙なら部屋の机に置いてあるわよ」

「わかった。ありがとう」

感謝を告げると僕は自室へと向かう。

自室の机の上にはキレイに包まれている手紙が置いてあった。

宛先人の名前を見て…。


その手紙を懐にしまうと階下でコーヒーを頂く。

「懐かしい人からの手紙だったわね」

母親も知っているその人物からの手紙に僕は軽く苦笑する。

「そうだね。本当に懐かしいよ」

相槌を打つように応えると母親は続けて口を開いた。

「もう返事してあげたら?」

「そうだね。連絡先書いてあるから…帰ったら連絡するよ」

「そうしてあげて」

コーヒーを飲み干して母親に感謝を告げると僕は再び車に乗りこんだ。

そのまま帰路に就くと自宅でスマホを操作するのであった。


「久しぶり。晴子せいこが鉄星だったなんて驚きだよ。いつも配信観てるよ」

それだけの短い文章に彼女は直ぐに返事を寄越す。

「うん。元カノがVTuberって変な気分?」

「当たり前だよ。それに配信中に僕の話をしているようだけど…振ったのは晴子の方だろ?」

そう、僕と晴子は付き合っていたのだ。

彼女のことを尊敬できる一人の女性として認めていた僕は晴子と恋人関係になったのだ。

それなのに彼女は高校卒業とともに僕から離れていった。

「それには理由があって…」

「どんな理由があったかは知らないけれど…僕らは一度終わってる。僕も心の整理がついた頃なんだ。もうあまりほじくり返さないで欲しい」

「待って。ちゃんと話を聞いて!」

そのまま晴子の返事を待っていると彼女は連投でメッセージを寄越す。

「高校卒業とともに今の事務所に入れることが決まってたの。それでネット上だけど有名人になるわけだから恋人関係はリセットしておいてくださいって事務所の人に言われて…別れるのも仕方なかったんだよ。私だって別れたくなかった。だからはっきりと別れの言葉は口にしてないでしょ?自然消滅的な流れだったじゃない。実質別れてない。とは言わないけれど…。その様なものでしょ?」

晴子からのトンデモ理論を目にして僕は嘆息する。

「今は考えられないよ。傷も癒えたところだからね。ごめん」

それだけ言い残すと僕はメッセージ終了とでも言うように適当なスタンプを押すのであった。


「星の好きな人さぁ〜…私も知ってる人だよ〜」

メンバーとのコラボ配信時に相手が口にした言葉だった。

「雅ちゃん…何処で賢人くんと出会ったの?」

禍々雅まがまがみやびは薄っすらと微笑みながら妖しく口を開く。

「んん〜?大学生の時だよ〜。私も好きなままなんだよねぇ〜。だから今日もコラボ受けたわけだし〜」

そうして新たなヒロインである禍々雅を加えたラブコメは再始動しようとしていた。


だが僕はまだ禍々雅の正体を分からないでいる…。

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