第11話

「きっも……お前、本当に女かよ」

「悪かですね、いっちょん全然似合わんで」

 石橋停留所より路面電車にて新地中華街停留所まで、そこから乗り換えて大波止停留所で降りると、徒歩圏内に長崎市三大ショッピングモールの一つがある。そこでレディース服を試着した宇門を、剣人は酷に評価した。

「せめて髪ば伸ばせよな。何、その刈り上げ」

「そんなら佐野さんのお金でカツラばぅてください。自分はこの刈り上げ維持するとに金かけとるけん」

「俺がお前に金ば使う義理なんてなか(無い)」

「彼女さんにも、何も買ぅてやらん派ですか、佐野さんは」

 剣人は深いため息を吐いた。

そいけんだからあれは」

「人に対して『あれ』はなかないでしょう」

 店員が、宥めるように宇門に近づいてきた。バニラの香りを纏っていて、長い髪が柔らかく舞っていた。宇門とは正反対の外見だった。

「レースが付いとっけん、余計に、ふんわりしたブラウスの浮いてしもぅとるですね」

 切れの悪い語尾から、店員が長崎市出身だと分かった。

「うちではこがん、ガーリーな服しか置いとらんですもんねぇ。お姉さんにはもっとシンプルでスタイルば強調するとが似合におぅとるかもしれんですね」

 店員の口角が固まっていた。自らの提案は宇門の手助けになるものの、ショップの売上を他店に譲ることになる。売り手としては複雑な心境であることまでは宇門には読み取れなかった。これまで、宇門にとっての服は女性らしく見えなければそれでよかったのだ。

 試着室から出た宇門は、開放感で四肢がのびのびしていた。剣人は両腕を組んで待っていた。そこへ、慌ただしく駆け寄る音が聞こえてきた。

「デートするなら私らも呼ばんばよばないと!」

 聞き覚えのある声が複数重なった。宇門は振り向いた瞬間、四肢が重くなった。剣人は、駆け寄る八重と彩華を軽快に避けた。その直後、立ち止まっていた恭子と視線が交わった。

 八重と彩華それぞれが宇門の腕に抱きつき、剣人の声が聞こえなくなった。

「恭子も早く!」

 宇門は別のショップまで引きずられた。恭子は剣人から逃げるように追いかけてきた。その後ろを、剣人も追った。

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