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バレンタインとしてあげた俺の味付け卵を羽鳥さんが美味しそうに食べていく。
いつもよりも更に美味しそうな顔で、嬉しそうな顔で食べていく。
その顔を見て、“来年もあげられればいいな”と思う。
味付け卵1つなんていう誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントはあげられないけれど、バレンタインだったら変ではないようなので・・・。
こんなにも喜んでくれるようなので・・・。
“来年もあげられればいいな”と、“来年も羽鳥さんはこの店に来てくれていればいいな”と・・・。
“ずっと、ずっと来てくれていればいいな”と思う。
“羽鳥さんが30歳になっても40歳になっても老人になっても、ずっと来てくれていればいいな”と思う。
そう思うけれど・・・
いつか羽鳥さんは婚約をして結婚をする。
更には妊娠をして出産する未来だってある。
めちゃくちゃ嫌だった。
そんなの死ぬほど嫌だった。
でも・・・
それ以上に俺は羽鳥さんとずっと会いたいと思う。
俺が30歳になっても40歳になっても老人になってもずっと会いたいと思う。
「良かった、俺は中華屋で。
普通の男子高校生じゃなくて良かった。」
嬉しそうに味付け卵を食べ続ける羽鳥さんを見下ろしながらそう呟いた。
そんな俺を羽鳥さんは不思議そうな顔で見上げてくる。
カウンターの向こう側から。
手を伸ばしても届かない場所から。
俺が普通の男子高校生だったら絶対に届くことはなかった想いや気持ち。
でも、この醤油ラーメンになら込められる。
“お嬢様の羽鳥さんが頑張れるように”
そして・・・
“大好きです”と・・・
“めちゃくちゃ大好きです”と・・・
その想いも気持ちも届けられる。
「幸治君が普通の男子高校生だったらこんなに美味しいラーメンは作れないもんね?」
「そうですね・・・。
お嬢様も通うくらいの中華屋ですからね、ここ。」
「お嬢様だけじゃなくて若くて可愛い女の子達も沢山通ってるけどね~・・・。」
味付け卵を食べ終わった羽鳥さんが急にムスッとしながらそう言い出した。
「なんですか、急に。」
「同じ会社にいる同世代の分家の女の子達とバレンタインの話になったんだぁ。
みんな楽しいバレンタインを過ごしたみたい。」
「バレンタインなんてチョコを渡して終わりじゃないんですか?
平日でしたし。」
俺がそう聞くと羽鳥さんが悲しそうな顔で首を横に振った。
「分家の女の中で綺麗な身体のままの女は、遂に私だけになっちゃった。
今年は平日だったのに2人も初体験を済ませちゃったみたい。」
財閥の分家の女の人は婚約するまでは綺麗でいなければいけない。
それを守り続けている羽鳥さんがそう言って、俺から視線を逸らした。
「好きな人とするエッチは凄く幸せなんだって。
分家の女だからって大丈夫だよって言われちゃった。
初体験くらいは好きな人と済ませた方がいいとまで言われちゃった。」
小さな声で早口で言った羽鳥さんが俺から視線を逸らしたまま口を開いた。
「幸治君の初体験は幸せだった?」
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