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それには内心めちゃくちゃ嬉しく思いながら、カウンターの上に小皿を置いた。
ラーメンの味付け卵、丸々1つがのった小皿を。
「そんなことをするわけないじゃないですか、いくらお金がなくても。
少し考えれば普通は分かりますよ。
羽鳥さんってマジでお嬢様すぎて冗談通じない。」
「え~・・・!?酷~い!!
もう・・・っ相変わらず失礼!!
・・・これ、なに?
味付け卵、ちゃんもラーメンにのってたよ?」
「俺から羽鳥さんへのバレンタイン。」
凄く驚いた顔で俺を見上げてくる羽鳥さんに笑い掛ける。
「羽鳥さんの時代はどうだったか知りませんけど、今は男から女へバレンタインを渡すこともあるらしいですよ?
羽鳥さん、お嬢様すぎて可哀想なので俺からのバレンタイン。」
「幸治君からの、バレンタイン・・・。」
味付け卵を見詰めている羽鳥さんから目を逸らすことなく言った。
「バレンタインのお返しには味付け卵を半玉、その場で出しました。
俺はお金がありませんし、この店にもお金がそんなにないので650円のラーメン1杯をご馳走することも出来ません。
俺、こんな味付け卵を半玉しか返せない男なんですよね。」
「“中華料理屋 安部”の味付け卵は美味しいよ?」
羽鳥さんがめちゃくちゃ嬉しそうな顔で笑いながら、味付け卵がのっている小皿を両手で静かに持ち上げた。
「私には1玉もくれるんだ?
嬉しい・・・ありがとう・・・。
可哀想っていう理由でも凄く嬉しいよ。」
百貨店のお菓子でもなく頬のキスでもなく、味付け卵1つをこんなにも嬉しそうな顔で見下ろしている羽鳥さんのことを見下ろす。
“めちゃくちゃ好きだな”と思いながら。
味付け卵半玉を出したら、それをバカにしたように笑いながらもお礼を言っていた女の子達の姿も思い出しながら。
“めちゃくちゃ好きだな”と・・・
“めちゃくちゃ好きです”と・・・
“その好きはお客さんとしての好きではなく、1人の女の人としての好きです”と・・・
心の中で強く強く思いながら、カウンターの向こう側にいる羽鳥さんに言った。
「俺も羽鳥さんはナイので。
でもお嬢様過ぎて可哀想だし、いつもめちゃくちゃお嬢様を頑張ってるから味付け卵1つあげます。
それくらいの気持ちですしこんな物しかあげられませんけど、いつもありがとうございます。」
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