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「うん、渡したよ。」




その返事を聞いて、聞いたことを後悔した。

でも知りたかった・・・。

婚約者のような相手が羽鳥さんに現れたかどうか、いつも気になって仕方がなかった。




“普通”以下の男子高校生の俺が好きになってどうにかなる人ではないとは分かっているけれど、いつも気になってしまっていた。




この人の隣に並べる男はどんな男なんだろうと気になってしまっていた。




俺がそんな凄い男になれるなんてこれっぽっちも思わないけれど、妄想や夢に見ることは何度もしていた。




俺が“普通”以上の男になって、“普通”以上どころか何かよく分からなけれど凄い男になって、“普通”に羽鳥さんの隣に並べる男になって、この店を羽鳥さんと一緒に出る。




お嬢様で大人のこの人がどんなデートだと喜んでくれて、どんな店に連れていけば良い雰囲気になるかなんて全く分からないけれど、妄想や夢の中では何だかお洒落で高そうな場所でいつも良い雰囲気になる。




それで・・・




それで・・・




何かよく分からないけれど凄い男になれている俺はこの人とセックスをする。




“普通”のセックスだけでもなく結構凄い感じのやつまで妄想し、夢に見て、そんな気持ち悪いとドン引きされるようなことを考え、何度も何度も下半身に手を伸ばしたことがある。




でも、言わない限り知られることはないから。

妄想の中だけでも、夢の中だけでも、俺は好きな女の人と結ばれたいと思っていた。

それくらいなら許されると思っていた。




現実の世界ではそんなことは絶対に起きないから。




だから・・・




だから・・・




「婚約したんですか?

おめでとうございます。」




今日も普通に笑って、嘘をつく。




“おめでとう”だなんてこれっぽっちも思っていないけれど、この人がまた週末にこの店に・・・俺に会いに来てくれるなら、俺は何度だってどんな嘘だってつく。




嘘をつき続ける。




そう今日も覚悟をしながら言ったら、羽鳥さんがクスクスと静かに笑った。




「違うよ、うちの部署でも今年は男性社員達にチョコを渡すことになって。

社内があんまり良い雰囲気じゃないんだよね、部長をしている分家の人間が良くない人で。

少しでも良い雰囲気にと思って、女性社員達でチョコを配ってみたの。」




「そうだったんですか。」




内心死ぬほどホッとしながらそう答えると、羽鳥さんがまたレンゲでゆっくりとスープを飲んだ。




それから明らかにムッとした顔で、なのに笑っているという顔で俺のことを見上げた。




そして・・・




「幸治君は女の子にチョコを貰ったんだ?

よかったね。」




どこをどう見ても“よくない”と思っている顔でそんなことを言い出した。

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