第19話 ホテル前にて二周目(隆之介視点)
「ほら、こっちに隠れてよ」
「わ、分かったからさ」
ホテルの前に行くと、以前もそうだったが今回も美憂は探偵ドラマのように眼鏡をかけ変装をしていた。
「わたしの変装完璧だから、前回は気づかなかったんじゃないかな?」
「いや……、前回も驚いてたけど、目立ちすぎだよ!」
俺は思わず苦笑いをしてしまう。
「あっ、バカにしてる?」
「いや、前回も同じようなこと言ってたよなって」
「そうか。以前のわたしも、同じことを言ってたんだね」
「そうだよ。何かあった時に助けないとと心配して来てくれたんだろう?」
「あっ、わたし、そう言ったんだね」
「じゃあ、警察呼んでもらわないとね……」
「実際に呼んでもいいんだけどね。それだと変わってしまうから……」
そうか。話の通り行動しなければ時間軸が変わってしまう可能性がある。
「だ、か、ら……、隆之介くんも以前と同じようにやられてよね」
「わっ、分かったよ」
「……よろしい」
「それにしてもさ。来る時間分かってるなら、その時間までここにいなくても良くない?」
「それはそうなんだけど……」
美憂はそう言って上目遣いで俺を見た。
「それにこのスペースは二人隠れるには狭すぎるよ。朝霧さんは、それでなくても……」
俺が視線を美憂の胸に移すと美憂が顔を赤らめた。
「いいよ、別に減るもんじゃないし……」
えっ!? もしかして揉んでいいのか。確かに死んでしまうなら、自暴自棄になるのも……。
「ホテルに……」
「入らないよ」
顔を真っ赤にして目を逸らした。これは調子に乗りすぎた。
それにしても前回と同じシチュエーションとは言え、ここまで近いとやはりヤバい。柑橘系とシャンプーが混ざり合ったような匂いが、俺を誘っているように錯覚してしまう。
「えと、その……、あまり近寄ると、反応してしまう、と言うか」
美憂の視線は俺の顔からずっと下……、その場所まで……。
「えっ、えっ、えーーーっ……」
「あのさ、すぐ来ないと思うから朝霧さんはここで待ってて」
俺は慌てて茂みを飛び出した。前回もだが、あんな場所で美憂と一緒にいたら理性を保っていられる自信がなかった。
俺は少し離れた場所に隠れる。ホテルからは少し離れてるが、この場所からでも充分監視できる。待っているとスマホが鳴った。
(あのさ、前回と同じ行動なんだよね、これ)
美憂は俺が全て知ってるからか、以前よりもハッキリと言ってくるな。
(ああ、そうだな)
(隆之介くんって、結構エッチだね)
(うるせえな。そんなわがままなボディしてるからだよ)
(おっさんくさいよ、それ)
(どうせ、おっさんだよ)
実際、俺の中身は三十五歳のおっさんだから、反応がおっさんぽくても仕方がない。
(どうせ亡くなるなら、あわよくば、とか思ったでしょ)
(いや、……そんなことはないよ)
(声が小さくなった!)
(うるせえなあ)
(まあ、いいんだけどね)
(いいのかよ!)
(とは言え、それで時間軸が変わってしまうと、わたしも天国行けなくなっちゃったら困るからね)
もし、結ばれたら、美憂トルゥルートに入らないのだろうか。俺は一瞬、頭に浮かんできた言葉を思考から追い払った。これは俺だけの問題じゃない。
(なあ……)
(どうしたの?)
(お前、怖くないのか? その刺されるの分かっていて……)
(大丈夫だよ。十三年間、ずっとこの時を待ってたんだよ。覚悟はできてる)
本当にそうだろうか。犠牲になるなんて怖くないわけがないが……。
――――――――
(あっ、来たよ。可憐ちゃんと海斗……)
美憂からメッセージが届いたのは前回と同じく夕方になってからだった。
(うん、分かってる)
この後、俺は前回と全く同じ行動をした。美憂は警察を呼ぶ真似をしたし、全てが繰り返されてると実感した。
可憐は用事ができたと海斗から逃げていき、怒り狂った海斗達は俺を殴って来て、美憂が警察が来たと叫び、海斗は逃げて行った。
「隆之介くん、これから可憐ちゃんのところに行ってあげて」
「なあ、このままホテルに入らないか?」
「何言ってるの?」
「俺は可憐じゃなくて、美憂を助けたい」
俺は朝霧さんではなく、名前で美優と呼んだ。俺が美憂に近づく。唇が触れそうな距離まで来るが美憂は逃げなかった。
「だっ、駄目だよ……、こんなことしたら、可憐ハッピーエンドにならないかも知れないじゃない」
「俺は可憐じゃなくて、目の前の美憂を助けたいんだよ」
「だから、その方法は……」
俺はそっと頬に口づけをした。
「何が起こっても知らないよ」
「美憂が俺のこと、どう思ってるか知らないけど、俺は美憂が好きだ」
その言葉に美憂は一瞬嬉しそうでいて悲しそうな微妙な表情をした。
「もう、冗談は顔だけにしてよ。血だらけじゃないの。ほら手当てしてあげるから、ちょっと待ってて」
そう言って美憂は手提げのカバンから絆創膏を出して貼ってくれた。
「これは大丈夫なのかな……その……」
「頬とは言えキスしたくせに、そのくらいでは変わらないと思うよ。ルートには入れてるからね」
「そっ、そうか」
「隆之介の気持ちは、受け取ったよ。でもね、それでも隆之介には可憐ハッピーエンドを迎えて幸せになって欲しい。それが私がここに来た意味だからね」
そう言って俯いた。
とりあえず、俺は可憐のところに行かないとならない。美優とのことは、それからだ。
「なら、行かないとな」
「頑張って、王子様」
「あっ、ああ……」
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