第18話 喫茶店のふたり(隆之介視点)

「こんにちは、さっきはありがとう」


 よかった。美憂が会いに来てくれた。泣いたら駄目だ。ここで泣くと美憂が困惑する。


「あっ、ああ」


「あんまり驚かないんだね」


「ごめん、俺、二度目だから……」


「二度目!?」


 美憂はキョトンした表情をした。まずかったか。


「いや、詳しい話は、その……喫茶店でしないか」


「えっ!? 驚いた。私が誘おうと思ってたんだよ」


「確かに……前の時間軸ではそうだったよ」


「……その話、ぜひ聞かせて」


 美憂はとても驚いた顔をしていた。今度は俺が先に喫茶店に入り、続いて美憂が入った。ウエイトレスは前回と同じく窓際のいい席に案内してくれる。


「朝霧さんは、コーヒーでいいよな」


「うっ、うん」


 俺は前の時間軸であったことを美憂に話した。最後、死ぬところはぼかしてだけれども。


 話している間にウエイトレスが俺たちのコーヒーを持って来てくれる。


「驚いたよ。この鈴にそんな効果があったなんて……」


「知らなかったの?」


「うん。これはここに導いた人が持ってろって言われたんだ」


「そうか。やはり美憂もこの世界に転生して来たんだね」


「そう言う隆之介くんも転生して来たんだ。驚いたよ」


 やはり、美憂は転生者だったんだ。なら、なぜ美憂は命をかけてまで、助けてくれるんだ?


「わたしがこの世界に転生したのは四歳の時。それから十三年間、この世界で生きて来たんだよ」


「えっ!?」


 美憂もさっき転生したばかりだと思っていた。実際は大きな時間のずれがあったんだ。


「どうして、俺を助けてくれるの?」


「隆之介くん、あなたを助けることが、指示されたことだからだよ。それで、わたしも救われるんだよ」


 嘘だ。可憐ハッピーエンドの条件に美憂の死があるのなら、美憂は幸せになんかなれない。


「なんか驚いた顔してるね。そうだね、わたしはこの世界では救われない。でも、結果的には救われるんだよ」


「意味が……分からない!」


「隆之介君は見てきたから知ってるよね。わたしはこの世界では亡くなってしまう。でも、その後、……わたしは天国に行き救われるんだよ。だから、心配しなくても大丈夫」


 美憂はそう言ってニッコリと笑った。じゃあ、なぜ俺は過去に戻ったんだ。神の意思が天国に行くことならば、過去に戻る必要なんてないじゃないか。


「この世界は全てフラグによって管理されてるんだよ。可憐ハッピーエンドを迎えることがこの世界を終わらせる一番の選択肢なんだよ」


「美憂ハッピーエンドは……」


「前の時間軸のわたしが言ったと思うけど、美憂ハッピーエンドにはいけないんだ」


「そうか……」


 美憂は俺を助けるために十三年間もこの世界で生きてきたんだ。その目的は可憐ハッピーエンドなんだ。


 天国に行って美憂が幸せになれるなら、俺がやったことは無意味だったのか。


「朝霧さんは俺のこと……その……、好きじゃないよな。その……、この世界に送り込んだ人に言われただけで、本当は天国に行きたいだけだしさ」


 美憂は一瞬躊躇したように見えた。


「当たり前だよ。わたしは言われたように生きてきただけだよ。わたしはあなたを導く。そのためだけに、この世界で生きてきたんだよ」


「そうか……なら、可憐ハッピーエンドを迎えるしかないのか」


 過去に戻ることができたのに、俺はこの世界では何もできない。


 その瞬間、ちりーんと言う大きな音が耳に響いた。


「あれ、鈴の音?」


「鈴の音? あっ、鈴はもう壊れてるから鳴らないんだよ」


 俺がポケットから取り出すと古びたままの鈴がそこにあった。とても音なんて鳴りそうにない。さっき聞こえた鈴の音はなんだったのだろう。


「その、……朝霧さんには聞こえなかったかな?」


「うん。いきなり隆之介くんが鈴の音と言ったからびっくりしたけど、それは壊れてるから、鳴らないんだ」


 確かに時間が巻き戻る瞬間、この鈴の音が聞こえた。そして、今も……。


(隆之介は、わたしが助けるからね。天国へ行けるなんて、我ながらうまく言ったよね。そんな説明なんかなかった。でも、本当のことを話したら、隆之介くん絶対可憐ハッピーエンドに行かないよね)


 今の声はなんだ……。俺は幻聴でも聞いたのだろうか。


「どうしたの? 怖い顔をして……、わたし何か嫌なこと言った」


「いや、そうじゃないんだ」


 この声は美憂の心の声だろうか。確信は持てないが、恐らく鈴が聞かせたのだろう。


「分かった……、ハッピーエンドに向かって頑張ろうな」


「うん。一緒に頑張っていこうね」


 今、美憂の心の声の話なんかしたら、美憂を困らせるだけだ。


「じゃあさ、隆之介くんは知ってると思うけど、可憐ちゃんとホテルの話……」


 そうか、まずは可憐ハッピーエンドルートに乗ることが重要だ。ここに鈴があると言うことは何か目的があるはずだ。


「うん、週末だね」


「流石に知ってるよね」


「ああ、そうだな」


 タイムリープの発動条件が分からないから、次は過去に戻れる保証はない。これが最後のチャンスかもしれないのだ。


「頑張ってよ! 隆之介くんが可憐ちゃんと結ばれるかどうかでわたしの天国行きが決まるんだからね」


 美憂は嬉しそうに笑った。鈴が聞かせた声が本当なら天国行きなんて嘘だ。もし、他に道が見つからないなら、俺が海斗に刺されるしかない。そうすれば、美憂の命は救われる。




――――


 どうして美憂ちゃんはそこまで助けてくれるんでしょうね


 全部の話を描くわけには行かないので、重要なところを飛ばし飛ばし行きますね。

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