第17話 繰り返される世界(隆之介視点)
「隆之介、このアングルなら、どうかな?」
俺は海斗に宣言された放課後、小説のイメージ作りに可憐と一緒に桜坂を歩いていた。どういう理由か分からないが、俺は過去に戻って来た。まだ、美憂は生きている。どうにかして美憂が殺される最悪の結末を回避しなければならない。
「いや、やはりお前では無理かも知れない」
「せっかく小説のモデルやってあげてるのに、それって酷くない?」
可憐の台詞は、以前と全く一緒だった。だが、このフラグは無視することはできない。俺はこの後桜坂で美憂と会うのだ。
「俺は普通の可愛い女の子と言ったはずだ……、なんでオタクの可憐なんだよ!」
「こんな可愛い娘捕まえて、隆之介ったら、まだ不満なの?」
「俺は、オタクじゃなくて普通の女の子がヒロインの小説を書きたいと言ったはずだ」
「
「可憐が普通の女の子なら、女子の殆どが普通の女の子になるだろうが」
「失礼ね。上には上がいるよ」
「下には下が、だろ」
可憐と以前の会話をなぞりながら、俺はどうすればいいか考えていた。この鈴はタイムリープマシーンのようなものなのだろうか。
「なあ、お前……、海斗と何かあったのか?」
「えっ!? 海斗くんがどうしたの?」
可憐と話す言葉は極力変えないほうがいい。未来が変わってしまう可能性を否定できない。
「いや、何でもない」
「変な隆之介だね」
話しながらも気持ちは焦ってしまう。美憂ハッピーエンドはないと言われた。なら、どうすればいいのだ……。過去には戻れたが、なぜ戻れたのか。なぜ、美憂がこれを持っていたのか。俺には分からなかった。
「それより、シナリオの確認しようよ」
「ああ、そうだな。このシーンは伝説の樹の下で主人公とヒロインが出会うシーンだよ」
「なに、そのベタなシナリオ……、しかもどっかで聞いたことがあるよ」
可憐は鞄を後ろ手に俺にニッコリと笑った。前の時間軸では俺は海斗に嫉妬していた。俺は海斗の最後に言った言葉が気になっていた。もしかして、海斗もプレイヤーなのか?
「伝説の樹って、どれのことかな?」
「あぁ、この桜坂を登ったところにある桜の樹だよ」
「ええっ、この地獄坂をまた登るの?」
「どうせ、クラブに戻るんだろ。なら一緒じゃないか」
「まあ……、そう、……だけどね。でもそれなら、ここまで降りてこなくても良かったよね」
「一度、全体を見ておきたかったんだよ」
「ふうん、まあいいや。じゃあ登ろうよ」
俺は坂を登りながら、美憂ハッピーエンドルートへ至る可能性を考えていた。美憂の発言からすると、そのルートはない可能性が高い。
「どうしたの?」
「あっ、いや。ちょっと考え事をだな」
「へえ、そうなんだ」
「そういやさ、お前、今年は夏コミ出展するのか?」
「うん、コミケは資金源だからね」
「お前、出展作は出来上がってるんだろうな」
「……、うん、いつも余裕でしょ。わたし落としたことないよね」
「もし、大変なら俺の手伝いなんてしなくていいからさ」
「気にしなくても大丈夫……、そんなことより、隆之介の方が大変でしょ。前の作品、二巻で打ち切りになったそうじゃない」
小説のことなど今の俺にはどうだって良かった。まずは美憂に会うことだ。会ってまず話さないと何も始まらない。
「あーっ、これだよね。桜の樹、ここで卒業式の日、告白するとふたりは一生幸せになるんだよね」
「オタク界隈で有名な噂だな」
「実際、告白したらどうなるんだろうね」
「冗談で当時付き合ってた先輩が、彼女とに告白したら三日後に別れたらしいよ」
「うわ、呪いの木じゃん。それ……」
可憐は嬉しそうに笑った。そうだ、この場所で美憂に会うんだ。でも、美憂はプレイヤーキャラだった。なら、今度は会えないかもしれない。
そう思いながら木に身体を預けた。登って来た坂道を見ていると坂の下に麦藁帽子を被った美憂がいた。
俺は大きく心臓が鼓動するのを感じた。良かった。美憂はまだ
強い風が巻き上がり坂の下にいた美憂の帽子が空に舞い上がる。
「あの!! すいません。帽子を取っていただけますか?」
帽子は、しばらく空をゆっくりと滑空してたと思えば、そのまま落ちて俺の手に収まった。
「……ありがとうございます」
美憂が俺の目の前まで息を切らせながら走ってきた。俺は思わず口をついて出た。
「……美憂」
「えっ!?」
「いや、なんでもない」
大きな蒼い瞳、長いサラサラの髪の毛、そして整った輪郭。何も変わってない。そして、……生きている。俺は泣きそうになって思わず目を逸らした。
「あっ、ああ。これだな、落とすなよ」
「はい、本当に助かりました」
美憂は俺にぺこりとお辞儀をして、そのまま坂に目を向け、もう一度振り返った。
「きっと……」
「きっと、助けるからな!」
俺は美優の言葉に被せるように俺が言った。絶対に助ける。海斗に殺させたりなんかしない。少し戸惑った表情で美憂は坂を降りて行った。
「……隆之介、あの娘と知り合い?」
「いや、違うよ」
「そうなんだ。なんか話してたからてっきりね」
少し会話が変わってしまったが、まあ大丈夫だろう。
「そう、それはそうとさっきの女の子、理想のヒロインだったよね」
「まあ、そうだな」
「なんで言わないの。小説のヒロインになってくださいって!」
「言えるわけねえだろ」
「わたしには言うくせに」
「お前とは違うだろ」
「当たって砕けろ、だよ」
「普通に砕けるわ!!」
「それもそうか。それにしても、お姫様いつも可愛いよね」
少し強く言ってしまったかもしれない。ただ、あまり大きな行動をするとデバッグモードへ入れなくなる可能性だってある。可憐への対応はなるべく言葉はなぞるように気をつけないといけない。
「お姫様!?」
「あれ、知らないの?」
「転校生だろ?」
「はあ、一年からうちのクラスにいるわよ」
「それを先に言えよ。なら、友達じゃねえか」
「友達じゃないわよ。住む世界が違うからね」
「住む世界が違うか。それもそうだな」
「そこで納得しないでよ」
「俺も一緒だ」
「確かに!」
とりあえず、喫茶店で美憂と話さないとならない。この後、可憐は海斗に呼び出されている。このフラグも立てないとならない。
「でもさ、インスピレーションは貰えたよ。俺、あの娘をヒロインにした小説を書くよ、あの娘、なんて名前なんだ?」
「朝霧美憂ちゃんだよ。分かってると思うけど、そのまま使ったら訴えられるかもよ」
「そんな恥ずかしいことはしない」
「まあ、それもそうか……」
「それにしても、名前の通り可憐だな」
「わたしと同じくね」
「いや……」
「こら、なんでよ! そこは肯定しなさいよ」
「そういやさ、そろそろ部活行かないとね」
「ああ、もうそんな時間か。じゃあ、またな」
「うん、またね」
可憐はそう言ってこちらをじっと見た。
「どうした?」
「うん、いや、なんでもない……」
今までの会話を繰り返すのは簡単だった。この後、俺は美憂と出会う。ここから先、俺が未来から来たことを話さないとならない。
時間はあまり残されてはいない。
――――――
会話のなぞるように書いてるので、会話文は極力変えてません。
今後は同じところは、書かないで行くか考えますね
読んでいただきありがとうございます。
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