第13話 美憂の電話(隆之介視点)

「ごめんね。電話して」


「いや、大丈夫だよ」


「今、可憐ちゃんの部屋だよね」


 なぜ、美憂は俺の行動を知っているんだ。初めて会った時から変だった。美憂は明らかに他の女の子と違う。


「あっ、ああ、よく分かったな」


「わたしは今の時間軸なら、全て分かるんだよ」


「えっ!?」


 美憂はやはりNPCではないのか。それなら、この世界のことをもっと聞きたい。本当に可憐を救い出すことができるのか。なぜ、それを知っているのか。だが、すぐに話を変えられてしまう。


「ごめん、こっちの話。それでね、明日のことなんだけどね。隆之介は可憐ちゃんとデートするよね!」


 明日は祝日だが、急にそんなことを言っても可憐にも予定があるだろう。


「いや、それは可憐に聞いてみないと分からないだろ」


「大丈夫だよ。可憐ちゃんはデートの約束絶対オッケーするからね。デート先は、そう……映画館がいいね」


「ちょっと待ってよ。どうして、朝霧さんが……」


「何も言わないで、わたしの言う通りに行動していればいい。やっとここまで辿り着いたんだよ。可憐ちゃんハッピーエンドのフラグはかなり厳しい。もう、自由にできるところはあまりないんだよ」


 やはり美憂は、これから辿る未来を知っているのだ。そして、何故か分からないがハッピーエンドまでの道筋を知っている。なら、きちんと知っておきたい。


「朝霧さん、俺は言う通りに動くよ。その代わりに今から会えないかな?」


「えっ!?」


 何も知らないまま、美憂の言った通りに動くのが嫌だった。あれだけ何度もプレイしたのに寝取られ確定後に可憐ハッピーエンドに行けるルートがあること自体不思議だ。それも、美憂の行動が鍵になっていることは間違いがない。だからこそ、聞いておきたかった。


「……そうだね。まだ、そのくらいの余裕はあるかな。分かった。じゃあ、1時間後に例の喫茶店で……」


「分かった」


 俺はスマホの通話を切ると、可憐の方を向いた。


「どうしたの? ……お姫様と会わないといけないんだよね。じゃあ、早く行ってあげないとね」


「いや、そうじゃない。俺は朝霧さんの言ってることがよくわからない。それを聞いてくるんだ。それよりさ」


 俺は言葉を一旦切った。ここで可憐を誘わないとならないんだよな。


「明日、映画館に行かないか?」


「えっ!?」


 可憐は大きな瞳をさらに大きくして俺を見た。


「ダメ、……かな?」


 この言葉に可憐は大きく首を左右に振った。


「ダメじゃないよ!! ダメじゃない」


「じゃあ、約束だよ」


「うん、でも……お姫様とは……」


「言っただろ。朝霧さんは俺にアドバイスをくれる。でも、なぜくれるのか。そして、さっき可憐と朝霧さんに面識がないと聞いた。なら、なぜ、海斗との関係をそんなに知ってるのか。それを直接聞きたいだけなんだよ」


「分かったよ。行ってあげて。とりあえず、わたしはいいよ。映画の約束もしたしさ」


 そう言ってはにかむように笑う。


「じゃあ、ちょっと行ってくるね」


「うん。でも、お姫様は何か海斗から聞いたのかもしれないよ」


 なるほど、可憐と面識がなくても海斗に聞いた可能性はあるかもしれない。


「確かに、そうかもしれないね」


「じゃあ、明日、映画館で10時に待ち合わせ。約束だよ!」


「うん、約束だね」


 俺は、じゃあね、と手を振って階段を降りた。


「ばいばい。頑張ってね」


「だから、聞き出すだけだって!」


「じゃあ、そうゆうことにしとくね」


「そう言うことって、それ以外にないって」


 俺たちの声にリビングにいた可憐の母親が玄関に出てきた。


「どうしたの? もうお帰り? てっきりご飯食べていくのかと思ってたんだけど……」


「うん、隆之介、ちょっと用事があってね」


「残念ね。また、いつでも来てね。お母さん、可憐の恋、応援してるからね」


「お母さん!! そんなんじゃないって」


 顔を真っ赤にして否定する可憐。明日、映画館でデートするなんて言ったら婚約させられそうな勢いだ。


「わたしはいつも可憐の味方だよ」


「だから、もう、ややこしくなるから、お母さんは黙っててよ!」


 三十五歳のおっさんからすれば可憐の本音がよく分かるぞ。元の俺のスペックならあり得なかったことだ。このゲームの俺はどちらかと言うとイケメンの部類。さすがは主人公。


「じゃあね。また明日」


「明日!?」


「あっ、何もないって、ね」


 可憐はウインクした。明日のデートは秘密ということか。確かにこの母親なら、秘密にしておいた方が都合が良さそうだ。


「あっ、明日は学校じゃなかったね」


「ほんと、隆之介ってば、お馬鹿さんなんだから……」


「ああ、そう言うことなのね。わたしはてっきりデートか何かと期待しちゃった」


 可憐の母親は頬に手を当てた。ちょっと読みが良すぎるんだが……。


「映画館でデートするのかと思ったのになぁ」


 て言うか絶対聞いてたよね。


「あはははっ、そんなわけないってね」


「そうそう。じゃあな」


「うん、バイバイ」


 この後、可憐は母親から根掘り葉掘り聞かれることは間違いない。まあ、それは俺には知らないこと。俺は美憂と話すために家を出た。


 それにしても、美憂は本当にこれから起こることを知ってるのだろうか。


 とりあえずしっかりと聞かないことには納得できない。




◇◇◇


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