第12話 可憐の部屋(隆之介視点)

「なぜ、言わなかったんだよ?」


「ごめんなさい」


「昨日のラインだよな。あの時から、おかしかったよ」


「うん、放課後に来いと言われた。絶対に隆之介に言うなと……」


 可憐は俺にスマホを見せた。そこには俺に見せたら、可憐、隆之介がどうなるか保証できないぞ、と書かれていた。


「ごめん。本当にごめんね」


「いや、いいんだ。可憐が無事で良かったよ」


「でも……、隆之介、酷い目にあうかもしれないよ。やっぱり逃げるべきじゃなかったのかな」


 俺は可憐の頭を撫でてあげた。


「大丈夫だよ。絶対に守るからな」


「ありがとう……」


 可憐は涙目で俺をじっと見た。


「うち、寄って行く?」


 その言葉にドキッとしてしまう。昨日は、可憐を説得するために行っただけだ。


「いいの? その……」


「隆之介、最近はあまり来てなかったけど、昔はよく来てたよね」


 そうか。この世界の俺は確かに可憐の家に何度も行っていた。


「じゃあ、行こうかな」


 だが、中身は彼女いない歴35年のおっさんだ。緊張しないわけがない。


「さあ、入って入って!」


「あっ、隆之介くん、可憐と仲直りしたのね」


 俺が玄関に入ると夕食の用意をしていた可憐の母親がこちらにやって来た。


「いや、その、なんとか……」


「可憐、良かったね」


「お母さん!」


 母親の声に可憐は顔を赤らめた。


「隆之介、上がろう。ほら、部屋は2階だからね!」


「ゆっくりして行ってね。そうだ! お母さん、部屋に入る時は、ちゃんとノックするからね」


「だから、そんなんじゃないって!」


 何故か可憐はその言葉に顔を赤らめた。部屋に入るのにノックするのは当たり前だと思うけどな。


「ほら隆之介、行くよ」


「うん!」


 階段を登るごとに可憐のスカートがヒラヒラと揺れる。流石は美少女ゲームの制服だ。これ、少し屈めばパンツ見えるんじゃないか。


「ほら、入って、入って!」


「うん、ありがとう」


 そしていつものように可憐の隣のベッドに座る。


「なんか、せいせいしたよ」


「俺も助けられて本当に良かった」


「わたし、何に囚われてたんだろうね。何故か、拒否できなかった」


「今ならできそう?」


「うーん、どうだろう。ただ、海斗のことを中心に考えなくなったかな」


 そうか。寝取られルートと思っていたが、どこかに回避できるルートがあったのだろうか。可憐は少し吹っ切れた顔をしていた。


「でも……、今後は隆之介言いがかりつけられないかな?」


「大丈夫だよ。学校でいきなり殴りかかってはこないだろうし……、気をつければね」


「気をつけてよ。海斗は怖いから……」


 確かに、海斗一人ならなんとかなっても、取り巻きが多い。あいつ達全員を相手にするわけにはいかない。


 そう考えているとノックする音が聞こえた。


「お母さん、ありがとう」


 可憐の母親がクッキーとコーヒーを持ってきてくれた。


「あれえ? 何にもしてないの?」


「お母さん! 何にもって何もしません!」


 俺は可憐の部屋で話したかっただけで、一体それ以外に何をすると言うのだろう。


「なんだ、つまんない」


 母親はつまらなそうに口を尖らせた。確かにこのゲームをしている時に、可憐にムラムラすることは何度もあった。いや、欲望の捌け口を目的にゲームしてたのだから、当たり前だろう。


「じゃあ、ごゆっくりぃ」


 と言ってから、思い出したようにもう一度俺を見た。


「今度、ノックした時、真っ最中だったら言ってよね。わたし30分くらいは待つからね!」


「何もしないから!!」


 可憐は顔を真っ赤にした。そこまで強く言われてしまうと本当に何もできない。もちろん、そんな気で入ったわけじゃないんだけどな。


「俺、お邪魔だったよな」


「そんなことないから!!」


 俺は慌てて立とうとして強く制止された。


「そう言えばさ、この前の話、途中までだったよね!」


「この前の話って?」


「隆之介とお姫様が付き合ってるって話だよ」


「えっ、えええええっ!!」


 どこでそんな噂が広まってるんだ。


「えと、みんな、そんな話してるの?」


 それは多くの男子生徒を敵にまわしかねない。


「わたしが思ってるだけだよ」


 俺はホッと胸を撫で下ろす。


「で、実際のところ、どうなの?」


「えっ!?」


「だから、お姫様とのことだよ」


「朝霧さんとは何もないよ。ただ、手助けしてくれてるだけだよ」


「ふーん。でも、お姫様とわたし接点ないよ」


 そうなのだ。確かに美憂と可憐に接点はない。無いはずなのだが、なぜか可憐はこれから起こることを知っている。


「あれ、隆之介のスマホ鳴ってるよ」


「あっ、本当だ」


 そこには朝霧美憂と表示されていた。


「やっぱり、付き合ってるじゃん」


「違うんだよ。これは……、その色々と相談に乗ってると言うか……」


「ふうん」


 そう言えばなぜ、美憂が助けてくれるのか。何故、可憐と海斗のことをそんなに知ってるのか。俺は全く知らない。


「出てあげてよ!」


 不満そうに可憐は一言そう言った。


「あっ、ああ……」


 俺が電話に出ると美憂の声がした。電話越しだが、それ故に俺の心臓が高鳴るのを感じた。




――――――



ヒロインはどっちなんでしょうか。


やはり可憐ですかね?


今後とも応援よろしくお願いします。

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