第10話 登校中(隆之介視点)

「よく我慢したね。えらいえらい」


 美憂は少し背伸びをして俺の頭を撫でてくれた。


「いや、なんかそれ俺、子供みたいなんですけど……」


「そんなことない!! 大丈夫。隆之介くんは可憐ちゃんの王子様になる人だから、そんなこと絶対思わないよ」


 美憂はニッコリと笑った。本当に寝取られ確定の世界から、可憐を救うことができるのか。


「本当に大丈夫なんだよな!」


「隆之介くんはわたしの言った通りにしてくれればいい。それで可憐ちゃんは助かるんだよ!!」


 美憂は真剣な目をしていた。でも、ならなぜ嘘をついたんだ。


「なあ! 朝霧さん、昨日言ったこと……、嘘だよな!!」


「えっ、なんのこと?」


「可憐と話したってこと。さっき可憐に聞いたんだよ。知らないって言ってた」


「そっか。もう、バレちゃったか……」


「なぜ、そんな嘘をつくんだよ!」


「ごめん。今は……言えないんだよ」


「どうして……、言えないんだ」


 俺は美憂の瞳を見て気づいてしまう。そうか。この娘もこの世界に囚われてるんだ。


「ごめんね。言ってしまうと魔法が解けちゃうからね」


「分かった」


 聞きたいことは山ほどあった。でも、今は可憐を助けることが先決だ。美憂は何故か知らないが可憐を助ける方法を知っているんだ。


「隆之介くん、ごめんね。でも、可憐ちゃんは絶対に助ける!! 海斗の思い通りになんかさせないんだから!!」


「どうして、そこまで俺のことを……」


「それは買い被りすぎだよ!」


 えっ、俺のためにやってくれてるんだ、と思ってたが……。


「海斗見てて腹立つでしょ。なんだか分からないけど、たくさんの女の子を弄んでさ」


 そう言えば、俺はこのゲームを繰り返しプレイしたが、ゲームの期間はたった数ヶ月だ。俺はそれ以前の海斗を知らない。


「他にも海斗に……その抱かれた女の子はいるのか?」


「いるよ。学校辞めた娘もいる」


 どんな目にあったのか。このゲームのバッドエンドを見た俺なら分かる。一番最悪なラストは、寝取られエンドの美憂だった。


「お姫様は……」


「だから、お姫様……違う!」


 こんな真剣な話してても、そこは気にするんだ。美憂は俺の言葉に明らかに不満そうにほっぺを膨らました。


「ごめん」


「いいよ。許すからさ……」


「朝霧さんは、その……大丈夫なんだよな?」


「……うん、わたしは大丈夫だからね。可憐ちゃんのことだけ考えてあげて」


 俺が大丈夫なんだよね、と聞いた時、美憂は少し戸惑ったような気がした。


「朝霧さんが、海斗に狙われたりしないよね!」


「だから今、わたし狙われてなんかいないんだよ!! わたしのことはいいから、可憐ちゃんの事だけ考えてあげて」


 本当に大丈夫なのか。海斗の言葉では可憐を襲った後、その毒牙は美憂に向く。


「でもさ、朝霧さんのことも言ってたからさ」


 その言葉を聞いた美憂は一瞬、俺から目を逸らした。


「大丈夫だよ。可憐さんを助けたら全てが解決する! 幸せな未来が待ってるんだよ」


 本当にそれで全てが解決するのか。ただ、俺は美憂のことを信用するしか他に道がなかった。だから……。


「分かったよ。放課後、絶対に助けるからね」


「うん! がんばれ!!」


 俺はそれしか言えなかった。本当に大丈夫なんだよな。それで全てが解決するんだよな。


 俺はこのゲームで一度もハッピーエンドを迎えたことがない。だから、その後に起こることも知らない。


 ただ、この手の美少女ゲームは、特定の女の子と仲良くなった後、ライバルキャラはゲーム本編からは退散していく。だから、美憂が寝取られこともなくなるはずなのだ。




――――――――




 本当!?


 主人公くんの言ってること、どうなんでしょうね


 読んでいただきありがとうございます。


 今後ともよろしくお願いしますね。

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