第6話 ホテル前にて(隆之介視点)

「ほら、こっちに隠れてよ」


「わ、分かったからさ」


 本当にこの娘は、お姫様と言うだけあって、ズレてるなあって思う。眼鏡かけるのは良いけど、ここまでドラマのような変装したらかえって怪しまれるよ。


「それにしても凄いね」


「えっ!?」


「完璧な変装なのに見破っちゃうなんてさ」


 それを聞いて思わず苦笑いしてしまう。


「あっ、バカにしてる?」


「してないって」


「絶対、うそだよっ」


 そのあどけない言葉が単純に可愛いと思う。それにしても、こんな雑な変装する娘が本当に俺を騙そうとするんだろうか。


「で、どうして朝霧さんがここに?」


「何かあった時にわたしが助けないといけないからだよ」


 俺は美憂をじっと見る。この華奢な身体でどうして助けられるんだろう。


「大丈夫だよ。言われた通りにやるだけだからね。危ないから離れててよ」


「……そんなわけにはいかないんだよね」


 美憂は小さな声で呟くように言った。


「それにね。おそらく夕方ごろに来るから、それまで暇でしょ!」


「いてくれるのは嬉しいけど、海斗が来ても出ないでくれよ」


「分かってるよ」


 俺たちは木陰に隠れる。隠れるスペースは大きいわけじゃない。どうしても密着してしまう。


「ご、ごめん」


 手を動かすと美憂の胸に当たってしまう。不慮の事故なんだけど、これだけ大きいとどうしても……。


「い、良いんだけどね。あっ、もちろん、揉んでいいとか、そういう意味じゃないよ。狭いから、……その当たってしまうのは仕方のないことだし……」


 それにしてもいい匂いだよな。柑橘系とシャンプーが混ざり合ったような匂いだ。彼女いない歴35年。体育祭でフォークダンスを踊った時、女子に嫌々手を繋がれていた俺としては、この状況は刺激が強すぎる。


「えと、その……、あまり近寄ると、反応してしまう、と言うか」


 美憂の視線は俺の顔からずっと下……、その場所まで……。


「えっ、えっ、えーーーっ……」


「あのさ、すぐ来ないと思うから朝霧さんはここで待ってて」


 俺は慌てて茂みを飛び出した。あんな場所で美憂と一緒にいたら理性を保っていられる自信がなかった。


 俺は少し離れた場所に隠れる。ホテルからは少し離れてるが、この場所からでも充分監視できる。待ってるとスマホが鳴った。


(ごめんね。その男の子のことよく分からなくて……)


 その言葉に下半身が反応してしまう。ここなら誰にも見られてない。大丈夫だ。


 男のことを全く知らない美憂が辿るフラグは、結構やばい。この美少女ゲームで目に焼き付くくらいに見た。寝取られエンド……。このゲームはエッチなゲームだから、そう言うシーンがかなり多い。美憂は最後、海斗だけじゃなくて海斗の連れの数人にも乱交される。男の体液を身体全体にかけられるシーンが頭の中にフラッシュバックする。あんなことされて美憂は平気なのだろうか。


 あの時は、ゲームだから我慢できたんだ。もし、現実に起こったら、俺は冷静でいられる自信がない。


(大丈夫。俺の方こそごめんね。その……、俺も女の子のことあまり知らなくて……)


 幼馴染の可憐がいるからゲーム内の俺は、女の子と一緒にいることは少なくない。それはあくまでゲームの話だ。


(うん、分かってる。多分、そうだと思ってたからね)


 あれ、美憂の納得したような反応が気になった。幼馴染がいて、女の子ともそこそこよく話してる設定の隆之介だ。美憂は本当の俺のことを知っているようにさえ思えた。


 その後、俺は美憂とラインで色々と話した。他愛もない話だけど、本当に性格も可愛くて、美憂のことが信じられるような気がした。



――――――――





(あっ、来たよ。可憐ちゃんと海斗……)


 どのくらいの時間経っただろう。もう空には夕焼けが広がっていた。


 ここからでも分かる。目の前には海斗と並んで歩く可憐がいた。その肩には海斗の手が乗っている。可憐の顔を見て悩んでるのが凄く良く分かる。


 俺は茂みから飛び出した。


「おっ、お前……隆之介がなぜここにいるんだよ!」


 海斗の声を無視して可憐を見た。本当に驚いた表情をする可憐。俺は可憐の前で土下座をした。


「お願いだ。可憐行かないで……」


「はあ、ふざけんなよ。なんだよ、隆之介の分際でよ」


 俺は海斗を無視して、じっと可憐を見上げた。


「可憐、俺のことだけ聞いてよ。可憐、ホテルに行かないで欲しい!」


「えと、その……あのさ……ごめん……わたし、用事ができちゃった。海斗くん、ごめんね」


 可憐は海斗が手を離した隙にホテルと逆方向に走って行った。


「ははははっ、やった。初めて防げたよ」


 これで終わるわけがないが、フラグの一つを潰せた気がした。少なくとも今日、海斗に寝取られる事はない。


「隆之介! お前、自分がやったことわかってるのか!」


「決めたんだ。絶対、お前には可憐を渡さない!!」


 これを聞いた海斗は俺の首根っこを掴んだ。


「ふざけんなよ! お前、俺がどれだけやってきたか、分かってんのかよ。お前が来なければこれから楽しめたんだよ。可憐だって、良いって言ってくれたんだ。それをさ……お前は叩き潰したんだ!!」


 これで終わったわけじゃない事は分かる。これがスタートだ。そして、これから起こることも予想できた。


「お前、この代償高くつくからな」


 海斗が俺を殴ってきた。俺はその手を掴む。


「へえ、隆之介。そんなことするんだな。本当に雑魚の分際でよ」


 周りを見ると目の前にたくさんの仲間たち。本当に海斗に都合のいいゲームだよな。


「おら、さっきの威勢はどうしたよ。おら」


 俺は数人から殴る蹴るの暴行を受けた。これはマジでやばい。また、死ぬかもしれない。本気で怒ってるのだろう。海斗に思い切り蹴られた。マジで痛い……。


「おら、立てよ! さっきの威勢はどこ行ったんだよ!!」


 これはやばいと思った。十人から殴る蹴るの暴行。とても持たない……。


「警察が来たわよ!」


 そこに響き渡る女性の声。この澄んだ声は美憂だ。


「おっ、やばい……行くぞ!」


 美憂は俺の状況を見て警察を呼びに行ってくれたのか。海斗たちは散り散りに逃げて行った。


 誰もいなくなったホテルの前に立つ美憂と顔を中心に怪我をした俺。


「あれ、警察は?」


「良かった。本当に良かったよ。呼ぶ暇なんてないよ。隆之介くん、怪我大丈夫? 病院行こうか?」


「いや、大丈夫だよ。このくらいなら、家に帰って治療したら大丈夫だからさ」


 病院に行けば根掘り葉掘り聞かれることになる。これ以上、海斗の怒りを買う事は今後に良くないと思った。


 少なくともシステムから守られている海斗を訴えてもいい結果になるとは思えない。


 俺は可憐に連絡を取ろうとスマホを取り出して、着信が鳴ってるのに気がついた。


 そこには登録されてない連絡先が表示されていた。だが、俺は分かる。この番号は海斗の電話番号だ。


 出るべきか迷ってる俺を見た美憂は俺にそっと小さな声で呟くように言った。


「電話は出なくていい。それより、可憐ちゃんを助けられるのは今日しかない。家に行ってあげて。きっと待ってるよ」




――――――




今日しかないのは何故でしょう。


これから反撃? かな


今後ともよろしくお願いします。


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