第5話 教室にて(隆之介視点)

「隆之介、お前分かってねえじゃん」


「何のことだよ?」


「俺はお姫様と話すなって言ったよな」


「だから、話してなんかいないだろ!」


 海斗は俺がそう言うと思い切り睨みつけて来た。


「二組の前でお姫様と話してただろ。見られてないとでも思ったのか?」


「嘘、だろ!」


 あの時、何度も確認したが、美憂と俺が話してるのを見ている生徒なんていなかった。しかも、話したのはわずか十数秒だ。よっぽど意識して見ていなければ気づけないはずだ。


「何が嘘なんだよ。言ったよな、俺は見ているって」


 こいつ、どこで見ていたんだ。いや、取り巻きあたりから聞いた可能性はある。それですら、あり得ない話だが……。


「マジ、ムカつくぜ。もしもう一度、話したら優先的にあの女から抱いてやるからな!」


「でも、振られたって聞いたけど……」


 俺は思わず、口をついて出た。可憐だけじゃなく美優も好き勝手にされてたまるものか。


「はあ! 本当にあいつが俺を振れると思ってるのかよ! 俺が本気を出したらこの世界の女は股を開いて喜ぶぜ。それはお姫様だって例外じゃねえからな」


 海斗はいやらしそうな表情で舌なめずりをした。こんな台詞聞いたら、一生の恋だって覚めるだろう。だが、それはこの世界が日本だったらだ。この美少女ゲームの世界ではフラグが全てだ。この自信からすると、美優でさえこの男に簡単に身体を許してしまうのだろう。


 やはり、美優もNPCなのだろうか。いや、もしそうでなくてもこの世界の摂理には抗えないのかも知れない。


「ははははっ、何にも言えねえよな。まあ、お前だって分かるだろ。お姫様に少しでも長く処女でいて欲しいなら、俺をあまり怒らせないことだぜ」


 そう言って教室を出ようとして、もう一度こちらを振り向いた。


「もし、本気で俺を怒らせたら、そうだなあ。お姫様をお前の目の前で犯してやろうかな。ああ、でもそれじゃあ、お仕置きじゃなくて、ご褒美かな」


「俺はそんな変態じゃねえよ!!」


 マジでこいつ最低だ。俺はその言葉に本気で腹が立った。


「いやあ、内心喜ぶと思うんだけどなあ。あの清楚なお姫様が乱れるところ、お前は見たいはずだよ」


「そんなわけねえし、朝霧さんがお前に抱かれるわけがない」


 この言葉に海斗は嬉しそうに俺に顔を近づけた。


「それがさ、あるんだよねえ。まあ、嘘だと思うなら見せてやってもいいけどよ」


 海斗はそう言って教室から出て行った。あの自信、やはり美優でさえ本当に抗うことはできないのか。





――――――――――



 家に帰宅してから、冷静になって考えた。本当に美憂は大丈夫なんだろうか。海斗はどう言う理由か分からないが、俺の行動のほぼ全てが分かるようだ。ただ、お友だち登録は気づいてなかったように思える。俺は意を決して美優にLINEで返信してみた。


(こちらこそ、よろしくね。それで少しいいか?)


 殆ど間を置くことなく返事が返って来た。


(遅いよっ。凄く待ったんだからね)


 返事が遅れたのは、教室でラインができなかったからだよ。あの海斗の言動からして送ったら、すぐに見つかりそうな気がした。見つかったらどうなるか分かったもんじゃない。それと、少しいいですか、はスルーされてるような気がするが……。


(すいません。少し海斗に色々と言われて……)


(そうなんだ。それは災難だね)


 やはり災難で終わるんだ。避ける方法とかないんだろうか。俺はもう一度、聞いてみた。


(海斗のこと、昔振ったと聞いたけど本当かな?)


(だって、気持ち悪くないかな? あー言うタイプ、わたし凄く嫌いだよ)


 この言葉にホッとしてしまう。やはり、海斗の強がりなんだろうか。流石にこの世界でも女を自由にできるわけがない。そう考えて違うと、すぐに頭を大きく振った。もし、そうであるならば、可憐は唇を許すわけがない。


(それを聞いて少し安心したよ。流石に朝霧さんが海斗を好きになるなんてあるわけないよね)


 美優のことを信用したわけじゃない。でも、可憐な美優が海斗に好き勝手にされるシーンを想像して思わず吐きそうになった。だからこそ、それはないと否定して欲しかった。ただ、俺の最後のラインへの返事はなかなか来なかった。


 このラインに対する美憂から返信があったのは、夕食を食べてお風呂に入って寝ようとした時だった。


(あるわけないよ)


 たった七文字の素っ気ない返信。待ってみたが、それだけしか送られて来なかった。用事があったのかも知れない。もしかしたら美優にとってどうでもいい話題だったから遅かったのかも知れない。


 でも、この短い文章が俺の心に強く残った。


 美憂がNPCであってもなくても、海斗が本気を出せば拒むことは難しいのではないだろうか。


 それは、このゲームの摂理のようなもので、例えばウルティマと言うゲームで言えばプレイヤーキャラがどんなにレベルを上げても、ロードブリティッシュ王を倒すことができない。それと同じではないだろうか。


 本当に明日、俺が可憐の前に現れて大丈夫なのだろうか。そのことで、海斗の怒りを買ってしまわないのか。美優に怒りの矛先が向かわないのか。俺はそのことが気になって、遅くまで眠れなかった。




――――――




 次の日、朝早くからホテルの前で俺は可憐を待った。何時に来るか分からないから、行くのは早い方がいい。


 交差点の向こうが木陰になっていて、ここなら発見されにくいと思って、ここで待った。


「あれ、あれは……」


 目の前の眼鏡をかけたポニーテールの女の子が気になった。ドラマで探偵が変装をしてるような格好で本人は騙せてるように見えるがとてもじゃないけど騙せない。


「お姫様、こっちに来てよ」


「だから、わたしはお姫様じゃ……あれ……隆之介くん、わたしの変装分かるの?」


 こんな雑な変装なら俺じゃなくても分かるよ。俺は思わず頭を抱えた。




――――――――




次回から主人公の反撃が始まるはず?


応援よろしくお願いしますね。


ヒロイン貼っときます。


https://kakuyomu.jp/users/rakuen3/news/16817330665791808690

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