第4話 お友達登録(隆之介視点)

「おはよう」


「おはよっ」


「おはよー」


 朝、教室に入るとみんなが楽しそうに挨拶をしていた。そんな中、俺だけ孤立してるように感じる。今日初めて可憐は朝、俺を起こしに来なかった。とうとうフラグが発動したんだ。


「よっ、可憐の唇奪ったぜ!」


 そしてわざわざ、その相手は報告までしに来てくれた。


「はははは、まずは可憐攻略からだな」


「ふざけるなよ!」


「ふざけてるのはお前だろ! 昨日、お姫様と一緒に喫茶店に入ったそうじゃないか」


 あれ、海斗はなぜ昨日の俺の行動を知ってるんだ。美憂の行動はフラグにはない行動だと思ったが違ったのか。


「よく知ってるな」


「オレの情報網を舐めるんじゃねえよ」


「お前の思い通りに行くと思うなよ!」


「なんだ、その台詞は、……隆之介の分際でそんな生意気な台詞を吐くのか」


 マジで最悪だ。こんな奴に可憐は唇を許したと思うと本気で腹が立つ。


「可憐を手に入れたら、今度はお姫様だな」


 やはり寝取られる運命は避けられないのか。明日、美憂の言うとおりホテルに行ったとしても、可憐を救うことなんてできるわけがない。


「ちょっと待ってくれ、お願いだ」


 俺は必死になって止めようとする。このシナリオはヒロイン寝取られエンドだ。こんなことをしても無駄なことは分かってる。それでも、俺は僅かな可能性にすがりたかった。


「ははははっ、お前が焦ってるの見るとせいせいするぜ。今は可憐攻略に集中しねえとな。ただな……」


 海斗は俺の机を思い切り叩く。教室の何人かが心配そうに、こちらをチラリと見て目を逸らす。そりゃそうか。海斗に目をつけられれば何をされるか分かったもんじゃない。助けてくれる奴なんてひとりもいないのだ。


「今度、お姫様に近づくことがあったら、お姫様も例外じゃねえからな」


 大声で俺を威圧してくる。これはゲームの世界だ。現実なら、美憂のような純粋な女の子が海斗のような男に寝取られる訳がないと思えるが、寝取られエンドなんだから、例外なくヒロインはみんな寝取られる。


 本当にそうなのだろうか。美憂がプレイヤーキャラなら違う気もするが……。美優に不信感を持ってるのは事実だが、それとこれとは別だ。


「分かったよ。もう近づかないからさ」


 俺が小さな声でそう言うと納得したような表情で、わかればいいんだ、と言って教室から出て行った。


「お前、海斗と何かあったのか。あいつかなりヤバい奴だぜ」


 俺が後ろの席を向くと友人の成澤隼人が心配そうに見ていた。


「分かってるよ」


「だよなあ、あまり、波風立てない方がいい」


 典型的な友人その1だよな。このアドバイスはいかにもだと思う。この世界がゲームの世界じゃなければ、もう少しやりようもあるが美憂はどうか分からないが、それ以外の登場人物はNPCだ。海斗に逆らおうなんて言う奴がいる訳がない。





――――――――




「おはよっ!!」


 二組の教室の前を歩いていると教室から出て来た美憂と目があった。慌てて目をそらそうかと思ったが、美憂は笑いながらこちらに近づいて来た。


「どうかな可憐ちゃんに変わったことないかな?」


 凄く明るい表情で俺をじっと見てくる。マジで可愛い。本当に美憂は俺の敵なんだろうか。俺は美憂の耳元で小さく呟いた。


「ごめん。もう、海斗に話すなって言われたよ」


「えっ!?」


 目の前の美憂は、凄く驚いた顔をした後、分かったと言ってスマホを出して来た。


「これ、登録しといて、わたしも送るからね」


 えっ、スマホにお友達登録してくれるのか。本当に俺でいいのか。少し迷ったが、美優になら騙されてもいい、と思った。そもそも、本当か嘘かは別にして美優を頼る以外にもう他に方法がない。俺が登録するとニッコリと笑ってじゃあねと行ってしまった。


 俺はキョロキョロとあたりを見渡して誰も見てないことを確認すると、席に戻った。俺が席に着くと後ろの隼人が俺の背中を軽く叩く。


「なあ、どこ行ってたんだよ」


「ちょっと、手洗いにな」


「その割には嬉しそうだな」


「気のせいだよ」


 変な勘繰りをされては困る。俺が否定しているとスマホが鳴った。


(こちらでは、初めましてだね。よろしくお願いします)


 俺はその文章をチラッと見るとすぐにスマホをポケットに入れた。こんなの海斗に見られたら、何言われるか分かったもんじゃない。


「そういやさ、隣のクラスのお姫様可愛いよな」


「……確かにな……」


「なんだよ、その淡白な反応さ」


「俺たちには高嶺の花だろ」


「まあ、そうなんだけどさ」


 そこで一旦言葉を止めて、隼人は凄く嬉しそうに笑った。


「お前、海斗の言ってたこと本当か?」


「なんの話だ」


「お姫様と一緒に喫茶店に行ったって話よ」


「他人の空似だよ」


「本当か?」


「だいたい俺がどうしてお姫様と喫茶店に入れるんだよ」


「違いねえ」


 そう言って隼人は俺に抱きついた。


「なにすんだよ」


「男の友情の証だよ。ぼっち同士、慰め合おうや」


 慰めるって何をするんだ。もしかして、アレとアレを重ねて……、想像して気分が悪くなった。


「まぢ、いらねえ」


「まあ、男同士こんなことしてると変か」


「変だな!」


「確かにな。そういやさ、お前がお姫様と知り合いだったら言おうか迷ったんだけどよ。お姫様、一度海斗に告白されて振ってるんだよね」


「はあ!? それ本当か?」


「どうやら、本当みたいだよ。だから、助言してやろうか迷ったんだけどな。関係ねえよな」


「……まあ、……そりゃそうだ」


「なんか微妙にお姫様の話するとお前の言動変になるんだよね。本当に何もない?」


「あるわけねえだろ!」


「まあ、そりゃそうだよな」


 それにしても美憂が一度は海斗の誘いを断っていたとは知らなかった。やはり美憂が何かの意思を持って動いてるのは間違いがない。もしかして、美憂と結ばれるエンディングに行ける可能性もあるのか。


 俺は思わず首を思い切り左右に振る。何を考えてるんだ。美憂が敵の可能性もあると言うのに……。ただ、俺を陥れてどんなメリットがあるのか、それが分からない。とりあえず今はホテルに入る可憐を助けることができるかどうかだ。


 止めることができたら未来は変わるのだろうか。


「おっ、いたいた!」


 俺が考え込んでいると海斗が教室に入って来て俺の前に立った。





――――――――



海斗の狙いはなんでしょうか。


順位が上がりました。


ラブコメ146位です。


みなさんのおかげです。


今後も応援よろしくお願いします。

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