第3話 喫茶店にて(隆之介視点)

 このまま屋上に行っても海斗と可憐のキスシーンを見るだけだ。このフラグ管理された世界で、今更行ってなにもできない。


 俺はなぜか知らないが、このゲーム世界がフラグで管理されてることを理解していた。俺のように転生して来たプレイヤーを除くヒロイン達はそのフラグから逃れることはできない。


 俺はそのまま家に帰ろうと歩き出した。


「こんにちは、さっきはありがとう」


「えっ!?」


 なぜ、美憂がここにいるんだ。さっきの登場も驚いたが、その時は俺が知らないだけだと思ってた。


「どうして、お姫様がここにいるんですか?」


「お姫様と言う言葉、嫌い」


「ごめん。もう言いません」


「よろしい。で、どうしてここにいるって、何か変かな?」


 我ながら何を言ってるんだと思う。美憂のイベント発生ポイントが違うからといって、登場した理由を聞くなんてあり得ないだろ。それにしても、美憂とここで出会うことなどあるはずがないのだが……。


 美憂は首を傾げて俺に近寄ってきた。正直無茶苦茶可愛い。こんな娘を彼女に出来るなら、明日死んでも構わない。


「いや、俺何言ってるんだよね。ごめんごめん。さっき別れたのになぜ、ここにいるのかなって思ってね」


「ふううん、もし待ってたと言ったら?」


 悪戯ぽい表情で俺をじっと見る。


「冗談はやめてくれよ」


 きっとからかわれてるんだ。学年一美少女の美憂が待ってるわけないじゃないか。そもそも、フラグ管理のNPCノンプレイヤーキャラクターが自由に動けるはずがない。


「そっか。まあ、そうだよね」


 目の前の美憂は小さくジャンプして、俺の近くから離れた。


「ね、喫茶店に行かない?」


「えええええええっ!!」


「だめ、……かな?」


 美憂は節目がちに俺にそう言う。駄目なわけがない。正直、俺の心臓は壊れそうにバクバク鼓動している。それにしてもこの娘、どうなってるんだ。


「どうして俺なんかに?」


「幼馴染の可憐ちゃんのこと、助言したいんだよ」


 助言イベントなんてあるはずがない。この娘はなぜここにいる。俺は美憂をじっと見た。


「どっ、どうしたの? そんな怖い顔をして……」


「いや、なんでもない」


 可能性は限りなく低いがフラグの見落としがないとは言い切れない。俺はそう自分に言い聞かせて、心を落ち着けた。助言だとしても、お姫様と二人きりで喫茶店に入っていいのか。


 俺はキョロキョロとあたりを見渡す。


「どうしたの?」


「いや、誰かに見られてないかと思ってさ」


「わたしは見られても平気だよ」


 なんでだよ。どうして、そんな言葉が出てくるんだよ。俺は思わずどもってしまう。


「ふふふっ、隆之介くんって、面白い」


 挙動不審すぎて、美憂に思い切り笑われる。これは不味かったか。それにしても、どう言うことなんだ。やはり誰かが俺を嵌めようとしてるのか。


「ほら、行こうよ。ここにいる方がきっと目立つよ」


 俺は意を決して喫茶店に向かって歩く。不信感と緊張で、きっと俺の歩行はロボットのようだったろう。


 なぜ、可憐の時は大丈夫だったかと言うとゲームのイベント通りに動いていたからだ。それに比べて……。


 俺はチラッと美憂を見る。


「どうしたの、かな?」


「いっ、……いえ」


 美憂はこんなキャラではなかった。もっと高飛車で上から目線だったはずだ。


 何度か攻略を試みたことはあるが、モノの見事に振られた。それに比べて、今の美憂は物腰が柔らかく、可愛く俺の理想の女の子だった。


「いらっしゃいませ」


 俺と美憂は窓際の席に案内された。ゲームでこんなシーンがなかったから、どう接していいのか分からない。


「緊張してる?」


「いや、全然……」


 今の俺には緊張よりも、何故と言う気持ちが強かった。誰かが俺を嵌めようとしてるのだろうか。


「全然なわけないよ。凄い緊張してるよね。分かる、わたしも同じだもん」


「えっ!?」


「あっ、いえ、なんでもないよ」


 なんか凄いことを言われた気がする。やはり、美憂はNPCじゃないのだろうか。ただ、それをここで聞くのは危険すぎる。そもそも、この寝取られ確定後のゲーム世界に送り込んだ神の意思が俺に好意的なはずがない。


「ご注文は何にしますか?」


 ウエイトレスがいつの間にか目の前に立っていた。心に余裕がなくて、突然現れたように思えてしまった。


「……えと、何注文しようか?」


「コーヒーかな?」


「じゃあ、俺もコーヒーお願いします」


 注文を終えるとウエイトレスは厨房に帰って行く。


「で、ごめん。何か助言したいって言ってたっけ?」


 それを聞いて目の前の美憂は、思い出したように身を乗り出した。て言うか普通に近いですけど……。悪意があるかもしれないが、それでも可愛いと思ってしまう。


「そうそう、幼馴染の可憐ちゃん、やばいよ。今のままだと海斗に酷いことされるよ」


 なぜ、美憂が海斗と可憐のことを知ってるんだ。ゲームでは美憂が可憐のことを心配しているシーンなんて一度もなかった。やはり、美憂は操られている。確信した俺は美憂に探りを入れてみることにした。


「……分かってるよ……」


「どうして! じゃあ、助けに行ってあげないと!!」


 美憂は強い口調で俺に言ってきた。なぜ、こんなに心配してくれるんだ。もう、可憐は攻略対象から外れてるのに……。


「あっ、ごめん。少し言いすぎた。でも、駄目だよ。キチンとしないと……」


「ごめん。もう、ここからじゃ、可憐を救うことは出来ない」


 俺はブラフをかけてみることにした。悪意があるならきっと……。


 美憂はそれを聞いて真剣な眼差しで俺をじっと見つめた。


「大丈夫。きっと隆之介の想いは叶うよ」


「はあっ!?」


「可憐ちゃんを助けてあげて……。きっと待ってるよ!」


「そうは言っても……」


 ウエイトレスがコーヒーを2人分持って来た。まずは美優の前に、そして俺の前にカップが置かれる。


 美憂はコーヒーを一口飲むと凄く苦そうな顔をした。


「にがーい。こんなにコーヒーって苦いの?」


 そのあどけない表情を見て俺を思わず笑ってしまう。無茶苦茶可愛い。でも、この台詞でさえ俺を惑わせようとしてるのか。


「ひどい。きっと隆之介だって飲めないよ」


「いや、大丈夫だよ」


 俺が勢いよく飲み干すと尊敬の眼差しで見てきた。


「凄いね。こんな苦い飲み物飲めるなんて」


 中身はアラフォーなんだから飲めて当然だ。それにしてもどう言う理由かは分からないが美憂は意思を持って動いている。


「まあ、今は可憐ちゃん助けることだよね。あのね」


 美憂は俺の耳元に近づいて小声で俺にささやいた。


「今週末に海斗は可憐ちゃんとデートをすることになってる。どこ行くかは分からないけど、ホテルには絶対来るから。身分証明書を出さなくていいホテルって言ったら分かるでしょ。可憐ちゃん、迷ってるから止めてあげて!」


 俺は美憂をチラッと見た。俺の心の奥底では二つの気持ちが浮かんできた。一つは美憂を操って俺を陥れようとしてる誰かに対する怒り、もう一つは本当にそうなのだろうか、と言う気持ち。ただ、今の俺には、この話に乗るしか方法がない。


「ありがとう。行ってみるよ!!」


「行ってみるよじゃない。絶対止めてあげて!」


 俺はその言葉に頷いた。美憂の言った通りに動けばきっと俺を送り込んだ奴の真相も分かるかもしれない。そして、限りなくゼロに近いが、美憂の言うとおり可憐を助けることができるかも知れない。




――――――――


 フラグ管理された世界のお話です。さてさて、隆之介の言うように美憂は悪意を持ってやってるのか。それとも……。


 読んでいただきありがとうございます。


 これからも応援よろしくお願いします。


https://kakuyomu.jp/users/rakuen3/news/16817330665653086918

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