殷仲文1 桓玄の姉婿
さて、桓玄が簒奪をなし宮殿入りしたとき、いきなり床が抜けた。あまりにも露骨な「没落」の兆しである。人々はこの事態に顔色を失ったのだが、殷仲文は言う。
「陛下の聖德の深厚なるを、地も受け止めきれなんだようですな」
桓玄は大喜びであったという。
佐命の項功、親族としての貴さ。殷仲文の驕り高ぶりは凄まじく、輿や馬、器具類や衣服、いずれもがとことんに贅を尽くされたものとなり、囲い込んだ美女も数十にのぼり、邸宅内では音楽の切れることがなかった。その上でドケチであり、多くのまいないをかき集め、家に数千もの金を抱え込んだが、なおも飽き足らず蒐集に走った。桓玄が
殷仲文,南蠻校尉覬之弟也。少有才藻,美容貌。從兄仲堪薦之于會稽王道子,即引為驃騎參軍,甚相賞待。俄轉諮議參軍,後為元顯征虜長史。會桓玄與朝廷有隙,玄之姊,仲文之妻,疑而間之,左遷新安太守。仲文于玄雖為姻親,而素不交密,及聞玄平京師,便棄郡投焉。玄甚悅之,以為諮議參軍。時王謐見禮而不親,卞範之被親而少禮,而寵遇隆重,兼于王、卞矣。玄將為亂,使總領詔命,以為侍中,領左衛將軍。玄九錫,仲文之辭也。
初,玄篡位入宮,其床忽陷,群下失色,仲文曰:「將由聖德深厚,地不能載。」玄大悅。」以佐命親貴,厚自封崇,輿馬器服,窮極綺麗,後房伎妾數十,絲竹不絕音。性貪吝,多納貨賄,家累千金,常若不足。玄為劉裕所敗,隨玄西走,其珍寶玩好悉藏地中,皆變為土。至巴陵,因奉二後投義軍,而為鎮軍長史,轉尚書。
(晋書99-33)
殷仲文と言えば、世説新語でも従犯定まらないザ変節漢という感じなんですが、まあ評価が難しいでね。桓玄の副官から転じて、いきなり劉裕付きの副官に抜擢されてるわけです。その才覚が凄まじかったのは間違いのないことなのでしょう。と言うかまぁこのひと、自分自身がどう考えてようと、嫌でも桓玄与党にならざるを得ない立場なわけですよね。いやあ、地獄ですわ……。
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