桓玄10 劉牢之内応
○晋書
しかしそこに
「公の英略、威名は既に天下を振るわさんとしております。対する司馬元顯はしょせん乳臭さも抜けきれぬ小童、
桓玄はこの言葉に大いに悦び、兄の
とは言えこの頃桓玄もまた人心を失っており、また中央に対し明確に逆らう意図を示してしまった以上自らの軍をどれだけ統御できるかについても不安を覚えていた。このためどこかで軍を引き返すべきなのではないかとも悩んでいたのだが、尋陽を過ぎても迎撃に出ているはずの中央軍が見えてこない。桓玄は中央の弱腰を見て取り大いに悦び、また配下兵たちの士気も向上した。
この頃
劉牢之が、子の
○魏書
桓玄が司馬元顯の迎撃準備を聞くと江陵で守りを固めるべきかと考えたとき、晋書では卞范之の言葉に喜んだと書かれるが、魏書では散々迷ったあげく卞范之に押し切られたことになっている。また晋書で省略された檄文が載る。
「
また大権を得れば、その凶悪粗暴な振る舞いは激しさを増し、そのことが司馬道子様に露見するのを恐れ、司馬道子様まわりの情報を遮断。このため司馬道子様の元に司馬元顕の悪評は届かず、おべっか使いどものごますりの言葉ばかりが届く始末。国政の大権は側仕えの佞臣ばかりが握り、ここに国政の乱れはいよいよ甚だしくなった。それに飽き足らず
更に
妾を囲うことが六禮にも等しいかのような振る舞い、尚書僕射に子飼いをつけ、長史にも息の掛かった客人を迎える。また貪婪なる側妾の扱いはさながら皇后であるかのよう。このような振る舞いのどこに君主を思う気持ちがあるのか、国事をすべて独占せんかのごときではないか。
八日觀仏の祭礼の折にもいきなり人の家に押しかけ、その家の婦人を妾として劫掠したと聞く。こうした“抜擢”に関しては、これまで平和裡に行われていたはずではなかったか。それとも晋室に於いては、夫の四肢を引き割くことが儀礼になったとでも言うのか。
喜怒に任せて軽々に人士を引き裂き、屋敷を建てるのにあたって少しでも工夫が居眠りをすれば斬り捨てる。加えてわずか四歳の妾腹の子を
このように語りながらも実はあまり勝てる当てがなかったが、司馬元顕の怯懦を見て取り喜んで突き進んだ、とするのは晋書と同じである。
玄本謂揚土饑饉,孫恩未滅,必未遑討己,可得蓄力養眾,觀釁而動。既聞元顯將伐之,甚懼,欲保江陵。長史卞范之說玄曰:「公英略威名振於天下,元顯口尚乳臭,劉牢之大失物情,若兵臨近畿,示以威賞,則土崩之勢可翹足而待,何有延敵入境自取蹙弱者乎!」玄大悅,乃留其兄偉守江陵,抗表率眾,下至尋陽,移檄京邑,罪狀元顯。檄至。元顯大懼,下船而不克發。玄既失人情,而興師犯順,慮眾不為用,恆有回旆之計。既過尋陽,不見王師,意甚悅,其將吏亦振。庾楷謀泄,收縶之。至姑孰,使其將馮該、苻宏、皇甫敷、索元等先攻譙王尚之。尚之敗。劉牢之遣子敬宣詣玄降。
(晋書99-10)
玄聞元顯處分,甚駭懼,欲保江陵。長史卞範之說玄東下,玄甚狐疑,範之苦勸,玄乃留桓偉守江陵,率軍東下。至夏口,乃建牙傳檄曰:
案揚州刺史元顯:凶暴之性,自幼加長;犯禮毀教,發蒙如備。居喪無一日之哀,衰絰為宵征之服,絃觴於殷憂之時,窮色於罔極之日,劫略王國寶妓妾一朝空房,此基惡之始,駭愕視聽者矣。
相王有疾,情無悚懼,幸災擅命,揚州篡授,遂乃父子同錄,比肩連案。既專權重,多行險暴,恐相王知之,杜絕視聽。惡聲無聞,佞譽日至。萬機之重,委之厮孽,國典朝政,紛紜淆亂。又諷旨尚書,使普敬錄公。錄公之位,非盡敬之所。苟自尊貴,遂悖朝禮。又妖賊陵縱,破軍殄民之後,己為都督,親則刺史,於宜降之日,輒加崇進。弱冠之年,古今莫比。宰相懲惡,己獨解錄,推禍委罰,歸之有在,自古僭逆未有若斯之甚者。
取妾之僭,殆同六禮,及使尚書僕射為媒人,長史為迎客,嬖媵饕餮,賀同長秋,所謂無君之心,觸事而發。八日觀佛,略人子女,至人家宿,唐突婦妾。慶封迄今,甫見易室之飲;晉靈以來,忽有支解之刑。喜怒輕戮,人士割裂,治城之暴,一睡而斬。又以四歲孽子,興東海之封。吳興殘暴之後,橫復若斯之調。妖賊之興,實由此竪。居喪極味,孫泰供其膳;在夜思遊,亦孫泰延其駕。泰承其勢,得行威福,雖加誅戮,所染既多。加之以苦發樂屬,枉濫者眾,驅逐徙撥,死叛殆盡。改號元興,以為己瑞,莽之符命,於斯尤著。否極必亨,天盈其毒,不義不昵,勢必崩喪,取亂侮亡,實在斯會。三軍文武,憤踊即路。
玄亦失荊楚人情,而師出不順,其兵雖強,慮弗為用,恒有回師之計。既過尋陽,不見東軍,玄意乃定。於是遂鼓行而進,徑至姑熟,又克歷陽。劉牢之遣子敬宣詣玄請降,玄大喜,與敬宣置酒宴集。
(魏書97-7)
桓玄の言葉が相変わらず難しい。正直超訳せざるを得ません。ただ晋書司馬元顕伝はもしかしたら桓玄のこの檄文からの再構築なのかもしれないよな、って。でないとここまでまるまるカットされてる意味がよくわからない。結構この檄文って重要な情報伝えてると思うし。
一方で、こうも感じます。
ぶっちゃけ檄文の情報、信用できないっしょ。
いかに自分たちが正当かを盛り、一方で相手がいかに悪辣極まりないかも盛る。そういう性格のものなんでしょう。司法組織なんて存在してない以上、勝てば官軍。各人物がでっち上げてる題目を拾えば、そこには現代的遵法精神の雛形を見出すことも叶いますが、まぁ何というか……「守らないことによる実質的ペナルティがない」。ていうか負ければ殺されるだけだし、負けて嘘を糾弾されてみたところで所詮殺されるだけ。裁かれない。なら、でっち上げをやらない意味がない。
そう考えると、勝ったにせよ負けたにせよ、檄文の内容をまともに受け入れるだけアホって話になってきますよね。宋書が
思考をごろごろ転がすと、あらゆる箇所に仮説を確定しきれない変数が見出せて困っちゃいますね。いやクッソ笑顔にしかならないですけど。
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