桓玄3  義興太守を蹴る2

○晋書


桓玄かんげんによる孝武帝こうぶてい宛ての上奏の続きである。


「我が先公は王がために苦難をも厭わず、皇位の復興や蛮夷平定などに尽力して参りました。朝廷がこうした先公の功績を擲とうと仰るのであれば、どうして臣もそれなりのことを考えずにおれるでしょうか。簡文帝かんぶんてい陛下が皇統を継承なされた末、いま、陛下が百官に南面しておられますことを、みなに問うてくださいませんでしょうか、その地位は誰の尽力によって確保されたものであったか、と。誰の徳行ゆえであったろうか、と。かの際立った功績は晋室の安寧をもたらし、祖宗の廟の祭祀をますます盛んにしたのはもちろんのこと、陛下のご一門をもまた盛り立てたに他ならぬはずではございませぬでしょうか。

 しかるにいま、朝廷では權門が日ごとに勢力を増しております。これにより政の腐臭も甚だしくなり、かの者らが時流であるとうそぶいて根も葉もない噂を垂れ流し、臣の兄弟はみな晋にとっての罪人がごとく扱われております。ならば臣らは陛下の聖世において、いかなる行いをすれば生きながらえることを許されるというのでしょうか? どのような顔で先公より継承した禄を食めばよいのでしょうか? 

 もし陛下が我が先公の打ち立てた大功をお忘れになり、小雅しょうが巷伯こうはくに歌われる貝錦かいきん萋菲さいひ、色鮮やかで中身空っぽな者たちのうそぶく妄説をお信じになると仰るのであれば、臣らは聖朝より賜った封爵を返上のうえ処刑を賜り、泉下の先公に詣で、玄宮げんきゅうにて先帝に拝謁いたしましょう。

 もし陛下がここまで申し上げたことをご検討くださるのであれば、どうか我が先公の旧功を再検証くださり、ささやかなりとものご恩をお賜り下されば、と願ってやみませぬ」


孝武帝はシカトした。




先臣勤王艱難之勞,匡復克平之勳,朝廷若其遺之,臣亦不復計也。至於先帝龍飛九五,陛下之所以繼明南面,請問談者,誰之由邪?誰之德邪?豈惟晉室永安,祖宗血食,于陛下一門,實奇功也。

自頃權門日盛,醜政實繁,咸稱述時旨,互相扇附,以臣之兄弟皆晉之罪人,臣等復何理可以苟存聖世?何顏可以屍饗封祿?若陛下忘先臣大造之功,信貝錦萋菲之說,臣等自當奉還三封,受戮市朝,然後下從先臣,歸先帝于玄宮耳。若陛下述遵先旨,追錄舊勳,竊望少垂愷悌覆蓋之恩。

疏寢不報。


(晋書99-3)




ほんと、いけしゃあしゃあと言い放つわよねこの子。寝言は叙任された地で功績を挙げてから言えと。まぁ典拠祭にひーこら言えたので良しです。いやあんま言ってないな、一応過去に調査済みだった内容だもんな?


まぁただこの辺、それぞれの桓温に対する認識が実際にどうだったのかを計る材料はない、というのは厳に弁えおきたいところです。我々はこの先の桓玄による簒奪まで知っているからそこを前提として見ちゃいますが、では本当にそこを前提とするのがどこまで許されるのか?


もちろん、あらかたその方向性でいいはいいのでしょう。けど、そこを確定してはならない。確定していいのはあくまで物語の中だけです。

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