何無忌2 桓玄よりの警戒

劉裕りゅうゆうがかつて劉牢之りゅうろうしの參軍であったころ、何無忌かむきと親交を築いていた。そして、このたびの桓玄による簒奪。彼らはついに桓玄打倒の計画を練り始めるに至ったのである。


劉毅りゅうき京口けいこうに家を構え、やはり何無忌との親交があった。あるとき二人の話題が晋室復興に及ぶ。


何無忌は言う。

「桓氏の強盛、どう傾けたものか」


劉毅は言う。

「天下には強弱がある。強きものもいつかは弱まるものだ。ただし、それを為し遂げる首謀者は得がたいものだが」


何無忌が言う。

「天下の草むら、沼地の中に、英雄もおらぬ訳ではなかろうがな」


劉毅が言う。

「まぁ、劉下邳殿くらいであろうな」


劉下邳、つまり当時下邳太守となっていた劉裕のことである。何無忌は笑って答えず、その代わり軍府に戻ると劉裕にこのことを告げた。こうして二人は劉毅を迎え入れ、計画を重ね決起、京口軍府を襲撃するに至ったのである。


このとき何無忌は詔勅を軍府にもたらす使者としての服を身につけ、敕使と偽装していた。何無忌らの襲撃に抵抗しよう、と言うものもいなかった。


一方の、桓玄。劉裕や何無忌らが決起したと聞くと、大いに震え上がった。その様子をいぶかった配下がいう。

「劉裕なぞ烏合の衆に過ぎますまい、奴らに為し遂げられることなぞありませぬ。どうかそう怯えられますことのなきよう」


桓玄は答える。

「劉裕の勇猛さは三軍に冠絶したもの、あれに勝てるものなぞおるまい。劉毅の胆力は並大抵ではない、まともな家財も持ち合わせぬくせに樗蒲の一投に百万銭を賭けるなど、並の人間にできたことではない。何無忌は劉牢之の甥だが、ひどく叔父に似ておる。こやつらが手を組んで、どうして為し遂げられぬことがあると思えるのだ!」


彼らが桓玄から警戒されていたこと、このようであった。




初,劉裕嘗為劉牢之參軍,與無忌素相親結。至是,因密共圖玄。劉毅家在京口,與無忌素善,言及興復之事,無忌曰:「桓氏強盛,其可圖乎?」毅曰:「天下自有強弱,雖強易弱,正患事主難得耳!」無忌曰:「天下草澤之中非無英雄也。」毅曰:「所見唯有劉下邳。」無忌笑而不答,還以告裕,因共要毅,與相推結,遂共舉義兵,襲京口。無忌偽著傳詔服,稱敕使,城中無敢動者。初,桓玄聞裕等及無忌之起兵也,甚懼。其黨曰:「劉裕烏合之眾,勢必無成,願不以為慮。」玄曰:「劉裕勇冠三軍,當今無敵。劉毅家無儋石之儲,摴蒱一擲百萬。何無忌,劉牢之之甥,酷似其舅。共舉大事,何謂無成!」其見憚如此。


(晋書85-17)




何無忌と劉毅の話は、どういう展開があったんでしょうね。なかなか表だって話せることでもないでしょうし、誰の耳があるともわからない。ここまで堂々と言えるってことは密談みたいなシーンだったんでしょうけど、桓玄が彼らに耳をつけないとは到底思えないですし。まさか桓玄、放し飼いしてたとか? まさかまさかなあ……いや、ありえるのか。諜報組織ってどういった形で組めるんでしょうね。絶対その辺歴史に載らないから、孫子のお言葉、カウティリヤのお言葉から類推するしかないんですよね。

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