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しかし防御障壁の効果か、
「怖がっているんだ……」
セレーネはアレク機械少佐が言っていたことを思い出した。
「どういうことだい?」
「アレク機械少佐が、組み立てられたばかりだから『生まれたての子供みたいなものだ』って言っていたの。初めての実包射撃というだけでも怖かったでしょうに……守ってくれる人みんなが止まってしまったのなら、怖くて当たり前だよね」
非人間型の
安心させてあげたかった。
「もう大丈夫だよ。撃たなくてもいいんだ」
防御障壁の向こうまで声は通らないだろうが、言わなくてはならない気がしていた。
念のため、防御障壁の強度を確認してみるが、最高強度のそれは、時間を掛ければともかく、次の砲撃までのあと数分で解除することは不可能だと分かった。
クレスは落ち着いた声でコマンドワードを口にした。
「
『
ザインは棒人間に戻り、現れたクレスは彼の11体の
「もう、ニッセの合唱隊は戦わなくて済みそうだ」
クレスは
まだ次の砲撃まで3分近くある。
「セレーネ――君が考えていることは分かる」
「うん。たぶん、闇の槍――
セレーネは後悔の言葉を口にする。
「でも、そのお陰でミノス王の杖を手に入れて、機械化猟兵団を止められた。今もまたそうだ。召喚した
クレスはセレーネの頭を撫でる。
「君はよくやったよ」
「
「疑ったらきりがない。僕らが知っているのは
「でもハイランダー卿は
「それが分かっていても君は、
セレーネは大きく頷いた。
「それでこそ僕の小さなセレーネだ。僕がその杖を使おう」
セレーネがクレスにミノス王の杖を渡すとザインはセレーネの背後に立った。
『行きましょう、セレーネ様』
『うん――
セレーネの後ろでザインが自らの身体を展開させ、彼女を包み込む。
それは本来、女神の永遠の騎士のための鎧だ。
だから今、彼女が身にまとっていることには大きな意味があるはずだ。それが何なのかまだわからない。しかし
「離れて」
クレスはエントロピーの法則を無視した高エネルギー状態への遡及の影響を受けないよう、かなり離れた。
光の槍は周囲のエネルギーを吸い取りながら、徐々に大きさを増し、また、さらなる収束を続ける。
そして光まで吸収を始め、ついには闇をまとう。
彼女のイメージの中のそれは従順で――むしろ闇の槍がイメージしているものに引っ張られ、収縮を始める。
「
クレスの声がした。
セレーネは仮想空間内のスクリーンに意識を向け、闇の槍が完全に物体としての輪郭を得たことを確認した。
もう、この世界で安定をしていた。
『ザイン――掴もう』
槍の柄をイメージしていた部分も刀身として固定化し、柄が刀剣のそれになっている。
ザイン=セレーネは
生身の人間では揮うことができない大きさだが、
次の砲撃のタイムリミットが迫っていた。
「今、止めてあげるから。怖がらないで」
セレーネは
切っ先が魔法による防御障壁に触れ、何の抵抗もなくそれを切り裂き、破る。防御障壁はすぐに修復しようと瞬時に場を再生するが、その破れた一瞬は、ミノス王の杖をクレスが用いて、新たなコマンドを
防御障壁の再生は止まり、ゆっくりと障壁が溶け落ちていく。
『「お願い。壊さないで」って言ってます』
ザインが
「大丈夫だよ。君はこの大陸を西へ東へと往復する旅を、仲間と一緒に続けることになる。きっと楽しいよって伝えてくれる?」
『それはいいことですね。喜んでくれるといいんですが』
ザインが伝え、少しして応答が返ってきたらしい。
『大陸って何、って聞いてます』
「そっか、そこからか」
クレスが口を開く。
「でもね、1人じゃないっていいことなんだよ、みんなも一緒なんだよ、って伝えてくれるかい」
『はい』
ザインがそれを伝えると
「ああ、もう、行ってしまうんだね」
セレーネは漆黒の
この世界で顕現できたことを――受肉できたことを喜んでいるかのようだった。
「さて、どこへ行こうとしているのか――」
クレスは消えた
「何か役割があるのか――どんな役割なのか」
セレーネは装着解除し、肉眼で太陽を見る。
その日輪の中に、漆黒の太刀の影は見えない。
セレーネが自分が作った媒介カードの束を確認すると、何枚も用意しておいた光の槍モドキを生成するためのカードが全て白紙になっていた。セレーネのもとから魔剣
《スカルペル》を作り出す力が去ったことを意味していると考えられた。
『機械化猟兵団が追いついてきました』
廃坑にいた機械化猟兵団の一団が、地平線の彼方に見えた。損傷が軽微なものは増援に駆けつけたのだろう。もちろんマルコキアスとジョミーの姿も見えた。
逆の方向からはウキグモの自警軍も追いついてきたのがわかった。
こちらも無事に終わったことを説明し、機械化猟兵団には後方支援部隊を説得する役割があるし、ウキグモ自警軍をそれが済むまで抑える必要がある。
しかし、彼らよりも一足先にマルコキアスとジョミーとは喜びを分かち合うことができるだろう。
「どう? 事業計画の青写真はできた?」
クレスがセレーネをからかうように言う。
「あ、そうか。わたし、これから女子高生社長だ」
『なんたる肩書き』
「彼らのためにも、
セレーネは笑顔になる。
悪い方向に行く気がしなかった。
それがたとえ、
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