第7章 魔剣の顕現
1
軽率だった。
ハイランダー卿に闇の槍のことまで知られてしまうとは。
影空間の中でセレーネは悔やむ。念話に抵抗できなかったのは咄嗟だったことと、まるで想定していなかったからという2つの理由からだ。通常は精神防御障壁があれば、簡単に弾くことができるし、戦闘時に精神防御障壁を展開するのは基本的な部類に入る。ザインはおそらく
闇の槍、
『大丈夫ですよ。ボクとクレス様の力でなんとかなります。あと、向こうでは交代ですよ』
「うん。分かってる」
正直、セレーネにはあの光の槍モドキの呪文を使わずにいられる自信がなかった。
影空間から出るとクレスはいなかった。というのもクレスは走っていたからである。
ザイン=セレーネが振り返ると荒野の中、アンテロープのように駆け、地平線の彼方に消えかけていた。全力疾走を砲撃後の数分間続けていると考えられるので、周りに自警団がいないのは当然だ。荒野の不整地では騎馬隊でも追いつけないだろう
「状況は?」
抱きかかえられたセレーネが聞く。
「2分前に信号灯で予想される砲撃位置情報がきた。もう次の砲撃があっても不思議がないけど、まだあと砲撃予想位置まで3キロはある」
上空にはまだ大型飛行機械が滞空している。クレスを追っているのだ。
「どこに着弾したんだろう?」
『港湾内に着弾したようです。上の子が言っています』
ザインがまだ点滅を続けていた大型飛行機械の信号を読んだようだ。
「被害は少なそうだね。よかった」
『たった3キロです。距離を詰めますよ。セレーネ様、しっかり掴まっていてください!』
「分かった!」
ザインがそう言うなり、メインの噴射機で宙に舞い、急加速した。この世界でGを感じることはほぼないが、セレーネはすさまじい加速度を受けつつ、
「髪型が~~」
「余裕そうだね」
クレスは笑う。
「向こうもこっちを見つけたね」
『強硬します。セレーネ様。防御呪文はご自分で!』
セレーネが見ても分かったが、210ミリ
2回目の砲撃直前だ。
距離はまだ1キロほど先だろうか。
荒野の中、岩石の山に隠れるように
「榴弾が直撃する前に」
セレーネは媒介カードで防御呪文を唱え、飛翔物体からのダメージを完全に打ち消す障壁を作り上げる。10分間有効なそれは十分役に立つはずだ。
「ザイン、砲撃を止めるよ」
『ええ、どうやって?』
「この近さなら放物線っていったってほぼ直進だ。
『マジですか』
「やるんだ」
『了解です。もう撃ちそうですから。聞こえてきてます』
どうやらザインには後方支援部隊の
「ニッセ、出てこい」
クレスがそういうと
『
ザインの
ニッセは簡易版
「ええっ! 3ちゃん、こんなことできたの?」
『マスターの戦い方に合わせて進化するのが
ということは今まではできなかったのだろう。
「行くぞ! セレーネ、離れて!」
クレスに言われてセレーネは
「突貫!
榴弾の雨が降る中、合わせて12体が推力を1方向に集中して空中に躍り出る。
後方支援部隊から小銃による射撃が加えられるが、有効射程ギリギリだ。当たっても装甲が弾いてくれる。
そして12体は空中で正12角形を作り、その中に肉眼ですら見えるほど強力な輝く障壁を作り出し、空中で停止した。
そこが予想される砲撃線なのだろう。
クレスの目と210ミリ砲の砲口はピタリと一致しているはずだ。
お願い、これ以上ウキグモに被害を与えないで。
セレーネは戦闘後の処理のことを思い、願ってしまう。街に被害が出れば、彼女の計画が破綻する可能性は高くなる。ひいては機械化猟兵団の運命が変わるのだ。
12体が空中に展開したその数秒後、輝く障壁が大きく歪んだ。
砲撃音がなかったのは秘匿性を高めるため、音の精霊を用いた消音装置が装備されていたからだろう。
「クレスお兄ちゃん!」
セレーネは祈るような気持ちで愛しい人の名を呼ぶ。
数秒後、爆炎が晴れる。
12体は正12角形の障壁を維持したまま、ゆっくり降下を始めていた。
同時に砲弾の破片も降ってきているが、防御魔法でセレーネの身体に届く前に弾かれている。
『成功しましたよ~』
少し離れたところに
セレーネは駆け寄り、声を上げる。
「あと5分余裕ができた!」
「でも
「そうだった! ハイランダー卿がいて、機械化猟兵団をコントロールしてて、マルコーとジョミーくんが
その杖は今、セレーネ自身がちゃんと握りしめていた。
「そうだ、このミノス王の杖があった!」
「またそんな
クレスが感心して言う。
「このミノス王の杖で、まずは後方部隊を無力化する!」
『杖の射程は短そうですから、また詰めますよ』
ワンテンポ遅れて11体のニッセたちが跳んで追随する。
空中高くから210ミリ
210ミリ
その周囲に巨大な砲弾を積んだ馬車が十数両あり、それを護衛する軽騎兵型の
セレーネはそれらの姿を見つつ、杖に戦闘停止の旨が伝わるよう念じる。
その直後、ピン、と張り詰めた感覚が頭を貫き、オーダーが通ったことがわかった。
『止まりましたね』
ザインがそういい、後方部隊の真ん中に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます